『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社刊)に、上記タイトルで本作品の原稿を書いておりますので、ぜひお読みいただきたいと思いますが、とりあえずここには、別の機会に書いた短いレビューをアップしておきます。こちらもそこそこ参考にはなるかと思います。映像とあわせてお読みいただくと、よりわかりやすいかもしれません。
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湾岸情勢が緊迫する90年に上院議員選に立候補する実業家にしてフォーク・シンガーのボブ・ロバーツは、上昇志向と拝金主義がはびこるウォール街で成功を収めた80年代の申し子だ。
アメリカの夢の体現者として脚光を浴びる彼は、メディアを巧みに操り、過去の不正が露見しかかると銃撃される狂言まで仕組み、権力を手にする。
彼のキャンペーンをドキュメンタリーのカメラが追うこの映画の元ネタは、ボブ・ディランの60年代のツアーを記録した『ドント・ルック・バック』であり、また、テレビ番組で60年代の価値を真っ向から否定する彼は、自分の主張を盛り込んだディランもどきのアルバムを作り、スターとなる。
そんな60年代と80年代の対照には、痛烈な風刺だけでなく深刻な危機感を垣間見ることができる。
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