エグザイル/絆
放・逐 / Exiled  Fong juk
(2006) on IMDb


2006年/香港・中国/カラー/109分/シネスコ
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(初出:日本版「Esquire」2008年12月号)

 

 

反復と空間と時間

 

 ジョニー・トー監督の『エグザイル/絆』を特異な作品にしているのは、反復と空間と時間に対するこだわりだ。

 反復については、ジョニー・トー自身がプレス資料のインタビューのなかで「簡単に言えば、この物語は繰り返しに次ぐ繰り返しだ」と語っている。この映画では、二転三転する物語のなかで、クライマックスに値するような銃撃戦が何度となく繰り広げられる。

 それが反復になるのは、空間によるところが大きい。銃撃戦は屋外ではなく、ウーが妻子と暮らす家やレストラン、闇医者の家、こぢんまりとしたホテルなど、閉ざされた空間で起こる。しかも、主人公たちと関係がない客のような人間はほとんどまったく登場しない。

 そして、それ以上に印象的なのが、至るところで強調される時間だ。舞台のマカオが中国に返還されるまでに残された時間。二組四人の男たちが、異なる目的で幼なじみのウーが戻るのを待つ時間。コインを投げてから男たちの運命が決まるまでの時間。ボール代わりの空き缶が宙に舞い上がってから落ちてくるまでの時間。男たちがはしゃいで撮ったスピード写真が仕上がるまでの時間。男たちの少年時代の写真とウーの家で撮った写真の間にある時間。


◆スタッフ◆
 
監督/製作   ジョニー・トー
Johnnie To
脚本 セット・カムイェン、イップ・ティンシン、銀河創作組
Szeto Kam Yuen, Yip Tin Shing, Milkyway Creative Team
撮影監督 チェン・シウキョン
Cheng Siu Keung
編集 デヴィッド・リチャードソン
David Richardson
音楽 ガイ・ゼラファ
Guy Zerafa
 
◆キャスト◆
 
ブレイズ   アンソニー・ウォン
Anthony Wong
タイ フランシス・ン
Francis Ng
キャット ロイ・チョン
Roy Cheung
ファット ラム・シュ
Lam Suet
ウー ニック・チョン
Nick Cheung
ウーの妻 ジョシー・ホー
Josie Ho
ボス・フェイ サイモン・ヤム
Simon Yam
ボス・キョン ラム・カートン
Lam Ka Tung
チェン軍曹 リッチー・レン
Richie Jen
-
(配給: アートポート )
 
 

 さらに、退職を控えた顔見知りの刑事が、たびたび銃撃戦の現場に現れ、自分可愛さで男たちを見逃すエピソードも、ユーモアのためだけにあるのではなく、退職と返還までの時間を際立たせる役割を果たしている。

 そんな三つの要素が複雑に絡み合っていくとき、この映画は、男たちの絆とは異なる強烈な磁場を生み出す。舞台はもはやマカオではなくなり、世界を飲み込んでいく。男たちの時間の終わりは、冷戦の終わりであり、歴史の終わりであり、物語の終わりであり、その後で私たちは、新しい生命か金塊かの二者択一を迫られるのだ。


(upload:2009/03/14)
 
 
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