ロイヤル・ハイネス / コットンマウス・キングス
Royal Highness / Kottonmouth Kings (1998)


 
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(初出:「SWITCH」1998年11月号、抜粋のうえ若干の加筆)

 

 

彼らはエボニックスとヒップホップで
白人の保守的なサバービアを挑発する

 

 今年(1998年)の夏に公開されたウェス・クレイヴン監督のホラー映画『スクリーム2』のサントラには、コットンマウス・キングスの<Suburban Life>が収録されている。この曲からはこのバンドの目に映る“サバーバン・ライフ(郊外の生活)”の実態というべきものが浮かび上がってくる。そのなかにはたとえばこんな歌詞がある。

 サバーバン・ライフは見かけとは違うぜ/サバーバン・ライフはアメリカン・ドリーム/サバーバン・ライフはきれいで緑がいっぱい/サバーバン・ライフは見かけとは違うぜ

 親父は新しい家とBMWを買ったよ/でも、すぐに状況が崩壊し始めたんだ/だって、親父が信じたシステムには心がないんだ/毎日請求書を見て親父の目は血走ってた/アメリカン・ドリームは真っ赤な嘘だった/六ヶ月後 市の裁判所行き 離婚 児童福祉だぜ

 どの家のなかでも家庭が崩壊 隣人は叫び 問題は解決されない/妻たちは虐待され 平安な夜はない/なんて気持ちだ なんて人生なんだ

 緑の芝生のある一戸建てが整然と並ぶ清潔で閑静な住宅地。そんなサバービア(郊外住宅地)に暮らすことは、第二次大戦後から50年代にかけて、多くの人々にとって手の届くところにあるアメリカン・ドリームとなった。しかし、現実のサバーバン・ライフは、人々が頭のなかで思い描いていた夢の生活にはならなかった。だからこそサバービアは、小説や映画、音楽などで扱われる新しいテーマ、新しい表現の舞台となった。そのことについては、拙著『サバービアの憂鬱』にまとめているので、ここでは詳しく語らない。

 コットンマウス・キングスは、カリフォニア州オレンジ郡のサバービア(郊外住宅地)から登場してきたバンドだ。オレンジ郡は保守的な土地柄で知られている。もちろんオレンジ郡の隅から隅まですべてが保守的なわけではないが、コットンマウス・キングスがターゲットにしているのは、保守的な土地柄を象徴するようなサバービアである。

 筆者は『サバービアの憂鬱』の「第24章 現代の郊外では何が起こっているのか」のなかで、サバーバン・ギャング同士の抗争をめぐる実話を取り上げた。80年代半ば、カリフォルニアのサンフェルナンド・バレーにある荒廃したサバービアでは、崩壊した家庭のティーンがギャングとなり、移民のティーンのギャングと抗争を繰り広げ、殺人事件に発展することもあった。


◆Jacket◆
royal highness
 
◆Track listing◆
01.   Bong Tokin’ Alcoholics
02. Play On
03. Suburban Life
04. Life Ain’t What It Seems
05. So High
06. Big Boss
07. Spies (KK with Humble Gods)
08. Bump
09. Dog’s Life
10. Misunderstood
11. Dirt Slang
12. What’s Your Trip
13. High Society
14. Psychedelic Funk
15. Me & My Skate
16. Discombobulated (KK featuring Too Rude and Dog-Boy)
17. Planet Budtron
18. Pimp Twist (Secret Track)
 
◆Personnel◆

Kottonmouth Kings: Saint, D-Loc, DJ Bobby B, Pakelika, Daddy X

(Capitol)

 コットンマウス・キングスもまた、そんなサバーバン・ギャングのスタンスで彼らを取り巻く現実を表現しているといえる。先述した曲<Suburban Life>には、こんな歌詞も盛り込まれている。

 コットンマウス・キングスもまた、そんなサバーバン・ギャングのスタンスで彼らを取り巻く現実を表現しているといえる。先述した曲<Suburban Life>には、こんな歌詞も盛り込まれている。「警察の拷問には耐え切れなくなりそうだったぜ/ドラッグをやってる白人の強盗、なりたがりやめ」「俺たちには仕事はねえ/さあどうする、白人マイノリティ」

 そして、コットンマウス・キングスがこの夏にリリースしたデビュー・アルバム『ロイヤル・ハイネス』(<Suburban Life>は3曲目に収められている)を聴くと、彼らが置かれた状況とそれに対するスタンスがより明確になるだろう。

 たとえば、サバービアの住民パトロールのことを歌った7曲目の<Spies>のなかには、「ここはジョン・ウェイン好きの共和党人間の地域だぜ」とか「あいつらは、俺たちに聖書の言葉を押し付けやがった」という表現がある。さらに、11曲目の<Dirt Slang>には、「俺たちの口から吐き出されるのは、郊外のエボニックス(黒人英語)さ」とか「これはサイケデリック・ヒップホップ・パンク・ロックなんだぜ」という表現がある。

 彼らは保守的な土地のなかで、黒人の言葉とヒップホップのスタイルを取り込み、過激で挑発的であると同時にサバービアの開放的なパーティ感覚も備えた独自のサウンドを作っている。そんなアプローチは、80年代からの流れを振り返るととても興味深く思える。

 80年代、キリスト教右派勢力の支援を背景に政権の座についたレーガンは保守的な政策を進め、これまで公民権運動によって拡張してきた黒人の立場は後退を余儀なくされ、そんな状況からヒップホップが生まれた。白人のメディアの支配に対して都市のゲットーに押し込まれた黒人たちは、その苛酷な現実をスクラッチ・ノイズにのせてぶちまけた。

 ところがその一方で、『サバービアの憂鬱』でも触れているように、保守的なサバービアでは、出口がないために孤立する若者が増加し、彼らは豊かな生活のなかで白人マイノリティとなり、90年代には自分たちの立場をゲットーの黒人とダブらせるようになった。それゆえにコットンマウス・キングスは、その苛立ちや怒りをエボニックスとヒップホップで表現するのだ。


(upload:2010/09/09)
 
 
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サバービアの憂鬱 ■

 
 
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