東京点描:未来を映す古都 / リッチー・バイラーク
Impressions of Tokyo: Ancient City of the Future / Richie Beirach (2011)


 
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年7月25日更新)

 

 

俳句的ソロピアノから浮かび上がる日本と3・11
あるいは、個人的な記憶と文化的記憶について

 

  久しぶりにリッチー・バイラークのピアノを聴いた。Outnoteというレーベルの“Jazz and the City”というシリーズの一作。それぞれのアーティストが縁のある都市を選び、ソロで表現する。これまでにEric Watsonの『Memories of Paris』、Kenny Warnerの『New York - Love Songs』、Bill Carrothersの『Excelsior』といったアルバムがリリースされている。

 バイラークが選んだのは東京。ジャケットには「東京点描」や「未来を映す古都」という日本語も刻み込まれている。全16曲のなかには、バイラークと交流があった日本のアーティストへの思いを込めた<Takemitsu-san>や<Togashi-san>、日本文化を題材にした<Kabuki><Zatoichi-Kurosawa><Rock Garden>といった曲が盛り込まれている。

 そうした曲のなかに、少し違和感を覚える曲名があった。14曲目の<Tragedy in Sendai>だ。この曲名は明らかに東日本大震災のことを意味しているが、このアルバムはいつレコーディングされたのだろうか。

 Outnote recordsのサイトに、プロデューサーのコメントがある。このレコーディングは2010年9月に行われ、その半年後、日本は広島、長崎への原爆投下以降、最悪の災難に見舞われた。そこでバイラークはこのアルバムを日本の人々に捧げることにした。要約すれば、そういうことのようだ。

 だが、素朴な疑問が残る。不穏な空気が漂い、どこか崩壊を予感させる<Tragedy in Sendai>には、もともとどんなタイトルが付けられていたのか。

 さらに、もうひとつ気づいたことがある。このアルバムを取り上げているいくつかの日本のサイトでは、その曲名に違いがある。<Tragedy in Sendai>は<Earthquake>になっている。さらに、9曲目の<Lament for Hiroshima and Nagasaki>がただ<Lament>になっている。

 ただし、ここでタイトルが違う理由にこだわるつもりはない。筆者が関心を持っているのは、タイトルの効果だ。<Earthquake>や<Lament>であれば、すべての曲はバイラークの個人的な記憶という枠組みにおさまっている。

 しかし、東日本大震災と結び付けられると、アルバムが持つ意味が変わってくる。マリタ・スターケンが『アメリカという記憶』のなかで区別している「正史としての歴史的言説」、「個人的な記憶」、「文化的記憶」のことを思い出すなら、このアルバムは、「個人的な記憶」からはみだし、わずかではあるが「文化的記憶」に近づく。

 たとえば、私たちは、<Tragedy in Sendai>と<Lament for Hiroshima and Nagasaki>をどう関係づけるのか。あるいは<Bullet Train>というテクノロジーと<Cherry Blossom Time>という自然とをどう関係づけるのかによって、個人的な記憶とは違う文化的記憶を生み出すこともありうる。このアルバムはそんなことも考えさせる。


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◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Haiku Intro: Tokyo Lights at Night
02. Haiku 1: Baker-San
03. Haiku 2: Butterfly
04. Haiku 3: Cherry Blossom Time
05. Haiku 4: Takemitsu-San
06. Haiku 5: Bullet Train
07. Haiku 6: Togashi-San
08. Ancient City of the Future
09. Lament For Hiroshima and Nagasaki
10. Haiku 7: Japanese Playground
11. Haiku 8: Kabuki
12. Haiku 9: Zatoichi-Kurosawa
13. Haiku 10: Rock Garden
14. Haiku 11: Tragedy In Sendai
15. Haiku 12: Shibumi
16. Eyes of the Heart

◆Personnel◆

Richie Beirach - piano

(Outnote)
 

 


(upload:2012/01/24)
 
 
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