ロバート・ドレイパーが、タブロイド的な感性と表現を織り交ぜながら、「ローリング・ストーン」誌の歴史をまとめた本書を読んでいて、最初に筆者の頭に思い浮かんできたのは、92年に出たリチャード・ヒルの探偵小説『WHAT ROUGH BEAST? 』のことだった。
60年代の体験を胸の奥にしまい込んだ探偵シエラが主人公で、背景にはドアーズが印象的に流れるような小説だ。そのなかに、探偵シエラが、失踪した少年の手がかりを求めて、少年の友人の家族に探りをいれようとするとき、「ローリング・ストーン」の編集者を名乗るという件がある。
実はただそれだけのことなのだが、その文脈からは、この探偵(とおそらくは著者)が、カウンター・カルチャーやニュー・ジャーナリズムの象徴だったこの雑誌に強い思い入れを持っていることや、いまではこの雑誌の名前が、トラブルはごめんだが、自分の息子が有名人になるかもしれないという下心を持った人間から情報を引き出すのに役立つようなものになってしまったという暗示があり、複雑な感情を実に巧みに表現している。
この『ローリング・ストーン風雲録』は、単なる「ローリング・ストーン」史をはみ出し、そんな感情が凝縮されている。ヒルの小説には、多くを語ることによって無駄な感傷にひたってはならないというモラルがあるが、それは、裏を返せば語るなら徹底的に語らなければならないということであり、著者と取材に協力した関係者たちは、まさにそれを実践しているということだ。
また、本書はこの雑誌を創刊し、育ててきたヤン・ウェナーのポートレイトでもある。この傲慢な独裁者は、必然的に批判的に描かれることになるが、皮肉なことに、この軽薄でどうしようもない男だからこそ、伝説の雑誌が誕生したのだという奇妙な説得力が漂ってしまうところが実に面白い。
編集部内に巻き起こる狂気と紙一重の乱痴気騒ぎに笑い転げ、こんな内情でよく定期刊行ができたものだと感心し、心地よい感傷に浸り、大切に胸の奥にしまい込んでおきたくなる本である。 |