ユマ・サーマン
Uma Thurman


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(初出:「English Journal」2006年5月号)

コンプレックスや不遇を乗り越えタフなヒロインに

 ユマ・サーマンの父親は、チベット仏教学の権威であり、俳優のリチャード・ギアとともにチベットを支援する活動を続けてきた。父親の親友であるギアは、少女時代のユマにとって兄のような存在だった。ある時、ユマはギアに、女優になるという夢を打ち明けた。すると彼は、呆れ返って、「どうして人生を台無しにしようとするんだい」と尋ねたという。しかし彼女は、そんな決して楽とはいえない道を選択した。

 ユマが育った環境は、様々な意味で一般のアメリカ人とは違っていた。大学で教鞭を執る父親、モデルからセラピストに転身して成功した母親は、4人の子供たちの自立心を養うような教育をした。子供たちは、テレビを見たり友だちと遊び歩く代わりに、本を読み、芸術や宗教について議論するように仕向けられた。

 スウェーデン出身の母親は、唯一の娘であるユマに、祖国やヨーロッパの感性を植え付けようとした。ユマが通った学校は、多文化を尊重していたが、それでも仏教徒の両親を持つ娘は、キリスト教徒のコミュニティのなかで浮いていた。しかも彼女は、鼻や手足が大きいことに対するコンプレックスに悩まされ、性格が内向的になっていった。そんな彼女にとって、演技は、抑圧から解放され、自分を表現することができる場だったのだ。

 ユマは、16歳の時にひとりでニューヨークに出て、演技の勉強を始める。そして、18世紀フランスの貴族社会を舞台にした『危険な関係』(88)で、退廃的で冷酷な公爵夫人や子爵に篭絡される無邪気な貴族の子女を好演する。続く『バロン』(89)や『ヘンリー&ジューン』(90)でも大胆で官能的な演技を披露し、注目の女優となった彼女は、自分を確認しようとするかのように、異なる題材、ジャンル、キャラクターに次々と挑戦していく。


   《データ》
1988 『危険な関係』

1989 『バロン』

1990 『ヘンリー&ジューン』

1993 『カウガール・ブルース』

1997 『ガタカ』

2001 『テープ』

2003 『キル・ビル』

2004 『キル・ビル Vol.2』

2005 『プロデューサーズ』
『Prime』

(注:これは厳密なフィルモグラフィーではなく、本論で言及した作品のリストです)


 ユマが追い求めたのは、まず何よりもタフなヒロインだったといってよいだろう。彼女は、先述した環境のなかで、自分がアメリカ人だという実感すらなかなか得ることができなかった。そしてその反動で、ボンド・ガールやバービー人形に強い憧れを持つようになった。女優となったユマは、この作り物のヒロインを生きたヒロインに変えていく。『カウガール・ブルース』で彼女が演じたシシーは、巨大な親指を持って生まれるというハンディキャップを乗り越え、史上最強のヒッチハイカーとなり、アウトサイダーたちの世界のなかで自分に目覚めていく。彼女の代表作である『キル・ビルVol.1,2』(03/04)では、復讐に燃える最強の殺し屋ザ・ブライドに成りきり、新しいヒロイン像を作り上げた。

 ユマは少女時代の夢を叶えたわけだが、その道程は決して平坦ではなかった。たとえば、『ガタカ』(97)は、深いテーマを持つSF映画であるばかりでなく、彼女の役柄が、女優としての模索を象徴しているともいえる。遺伝子操作が人の将来や寿命を決定する近未来世界のなかで、ユマ扮するアイリーンは、自分の可能性を広げる道を閉ざされている。ユマの初期の作品では、その容姿に加えてヌードシーンが目立ったこともあり、彼女はセックスシンボルのレッテルを張られ、個性や演技力を発揮する作品に恵まれなかった。

 ちなみに『ガタカ』では、ユマとイーサン・ホークの間にロマンスが芽生え、結婚だけではなく、『テープ』(01)の共演に結びつく。舞台がモーテルの一室に限定されたこの映画では、二人の男が、高校時代に奪い合ったエイミーをめぐって繰り広げる会話のなかで、彼女の犠牲者としてのイメージが定着していく。ところが後半、ユマ扮するエイミーが登場し、彼らの思い込みを見事に覆してみせるのだ。

 今や二児の母親でもあるユマの新作は、ミュージカル・デビューとなる『プロデューサーズ』(05)。彼女は、歌い、踊り、セックスシンボルを嬉々として演じている。また、もう一本の新作であるコメディ『Prime』(05)では、離婚したばかりなのに14歳も年下の男と恋に落ちてしまうキャリア・ウーマンを演じているという。イーサンとの破局から立ち直った彼女には、演技を楽しむ余裕が出てきたのかもしれない。

《参照/引用文献》
"Uma Thurman: the biography" by Bryony Sutherland & Lucy Ellis●
(Aurum Press 2005)

(upload:2009/05/27)
 
 
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