ユマが追い求めたのは、まず何よりもタフなヒロインだったといってよいだろう。彼女は、先述した環境のなかで、自分がアメリカ人だという実感すらなかなか得ることができなかった。そしてその反動で、ボンド・ガールやバービー人形に強い憧れを持つようになった。女優となったユマは、この作り物のヒロインを生きたヒロインに変えていく。『カウガール・ブルース』で彼女が演じたシシーは、巨大な親指を持って生まれるというハンディキャップを乗り越え、史上最強のヒッチハイカーとなり、アウトサイダーたちの世界のなかで自分に目覚めていく。彼女の代表作である『キル・ビルVol.1,2』(03/04)では、復讐に燃える最強の殺し屋ザ・ブライドに成りきり、新しいヒロイン像を作り上げた。
ユマは少女時代の夢を叶えたわけだが、その道程は決して平坦ではなかった。たとえば、『ガタカ』(97)は、深いテーマを持つSF映画であるばかりでなく、彼女の役柄が、女優としての模索を象徴しているともいえる。遺伝子操作が人の将来や寿命を決定する近未来世界のなかで、ユマ扮するアイリーンは、自分の可能性を広げる道を閉ざされている。ユマの初期の作品では、その容姿に加えてヌードシーンが目立ったこともあり、彼女はセックスシンボルのレッテルを張られ、個性や演技力を発揮する作品に恵まれなかった。
ちなみに『ガタカ』では、ユマとイーサン・ホークの間にロマンスが芽生え、結婚だけではなく、『テープ』(01)の共演に結びつく。舞台がモーテルの一室に限定されたこの映画では、二人の男が、高校時代に奪い合ったエイミーをめぐって繰り広げる会話のなかで、彼女の犠牲者としてのイメージが定着していく。ところが後半、ユマ扮するエイミーが登場し、彼らの思い込みを見事に覆してみせるのだ。
今や二児の母親でもあるユマの新作は、ミュージカル・デビューとなる『プロデューサーズ』(05)。彼女は、歌い、踊り、セックスシンボルを嬉々として演じている。また、もう一本の新作であるコメディ『Prime』(05)では、離婚したばかりなのに14歳も年下の男と恋に落ちてしまうキャリア・ウーマンを演じているという。イーサンとの破局から立ち直った彼女には、演技を楽しむ余裕が出てきたのかもしれない。 |