そして、彼女の女優としての地位を不動のものにするのが『チョコレート』(01)だ。アメリカ南部を舞台にしたこの映画では、死刑囚の夫と息子を相次いで失った黒人女性レティシアと、息子を自殺に追いやったことで価値観が揺らぐ人種差別主義者ハンクの間に、絆が芽生えていく。ベリーは、喪失の苦悩を背負い、愛に飢えたヒロインを熱演し、アカデミー賞で黒人初の最優秀主演女優賞に輝いた。
このアカデミー賞に至る道程を振り返ってみて、『ジャングル・フィーバー』とともにもう1本、象徴的だと思えるのが、ベリーが本人としてカメオ出演しているスパイク・リーの『ガール6』(96)だ。女優になるために苦闘する黒人女性の幻想と現実を描くこの映画のラストには、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムに刻まれたドロシー・ダンドリッジの名前が浮かび上がる。
ダンドリッジは、50年代に黒人女性で初めてアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた女優・シンガーだ。ベリーは、尊敬する人物として彼女の名前を繰り返し上げ、その生涯を描いたTV映画『アカデミー 栄光と悲劇』(99)ではヒロインを熱演するだけでなく、製作総指揮も手がけている。彼女が『チョコレート』で栄冠を手にすることは、ダンドリッジが果たせなかった夢を叶えることでもあったわけだ。
そして、最近のベリーの出演作では、これまでの彼女の関心や方向性がより広がりを持ち、発展しつつあるように見える。
突然変異によって超人的なパワーを持ったミュータントと人間の対立と共存への茨の道を描く“X-メン”シリーズは、『X-メン』(00)がホロコーストのシーンから始まり、『X-メン2』(03)の冒頭では、「我々は友だちであって、敵であってはならない」というリンカーンの大統領就任演説が紹介されるように、現実の人種差別の問題と深く結びついている。
森の中にある女子刑務所精神科病棟を舞台にした『ゴシカ』(03)は、ヒロインの精神科医ミランダが少女の霊にとり憑かれていくゴシック・ホラーであると同時に、彼女が偽りの世界の中で真実に目覚めていく女性映画にもなっている。最新作の『キャットウーマン』(04)は未見だが、ここでヒロインの名前に注目しておいてもよいだろう。彼女の名前はペイシェンス(Patience)。巨大な化粧品会社で忍耐を強いられる彼女が、キャットウーマンになることによって何に目覚めるのか注目したい。 |