■■平田オリザ作品の方法論■■
“観察映画”で注目を集める想田和弘監督の最新作『演劇1』『演劇2』の題材は、日本の演劇界で異彩を放つ平田オリザと彼が主催する劇団・青年団だ。これまでの観察映画を振り返ってみると、第1弾『選挙』の主人公、「山さん」こと山内和彦が想田監督の大学時代のクラスメートで、第2弾『精神』の舞台「こらーる岡山」が、NPOを運営する想田監督の義母と関わりのある精神科診療所だったように、その題材にはニューヨーク在住の想田監督と個人的な繋がりがあった。では、平田作品とはどのように出会い、どんな関心を持っていたのだろうか。
「2000年にニューヨークで『東京ノート』を観たのが最初です。その時は不勉強で平田オリザさんの名前ぐらいしか知らなかったんですが、大袈裟な演技とか翻訳口調の台詞など、僕が敬遠気味のいわゆる演劇臭さみたいなものが一掃されていることに作り手の強い意志を感じました。僕がまだ駆け出しのテレビ・ディレクターで、ドキュメンタリーの難しさに直面している時期でした。目の前の現実にカメラを向けた途端に、なにかよそよそしいものになってしまう。ドキュメンタリーですら『リアル』をとらえるのが難しいのに、それを舞台上でやってのけてしまうことに途轍もないものを感じたんですね。それで、06年に別の作品で来られたときにも拝見したんですが、鳥肌が立ちました。『これは絶対に確固たる方法論があるはずだ』と直観し、平田さんの本を読み漁ると、やっぱりそう。ちょうど僕自身、『選挙』の編集中で、観察映画という方法論を自分なりに編み出そうとしていた時期だったので、なんかもうビンビンに響いてきたんです」
■■佐藤真さんの存在■■
この新作では、想田監督のカメラが平田オリザに貼りつき、自在に動き回り、彼と青年団の活動を多面的に映し出していくが、撮影に関して制約はなかったのだろうか。
「全然なかったですね、ものすごいオープンでした。撮影を申し込む手紙には、『稽古や執筆など平田さんの演劇の作り方から、公演の準備や助成金の申請など劇団の運営方法にもカメラを向けたい』と書いていました。また、『選挙』のDVDも送ってました。そのせいか、プロジェクトの説明のために初めて平田さんに会いに行ったときも、平田さんは僕のやりたいことは完璧にわかっている感じでした。僕の説明をまだ2、3分くらいしか聞いてないのに、『で、いつやります?』って(笑)。すでに撮影の受け入れを決めてるんですよ。これには面食らいましたね。ドキュメンタリーを撮るというのは相当なコミットメントなので、こちらにも覚悟がいる。だから自分から提案していても、実は100パーセント『撮る』とは腹が固まっていなかったんです。でもその面食らっている時に、平田さんが、『実は生前の佐藤真さんが同じような企画を立てていて、一緒にやりましょうという話をしていたんです』と仰って、それで覚悟ができました。僕は佐藤さんの影響でドキュメンタリー映画の道に入ったところがあるし、『選挙』が世に出る過程でもすごくお世話になって。その佐藤さんが平田さんの演劇を撮ろうとしていたとは。しかも撮らずに亡くなってしまった。その名前が出た時点で、これをやらないでどうするんだって思いました」
■■不自然な操作と自然なリアル■■
観察映画という独自の方法論は、撮影に入る前にリサーチをせず、先入観を排除して観察に徹することが大前提になっている。つまり、最初から明確なテーマがあるわけではなく、それは後から見えてくるものなのだ。しかし、この新作の場合、想田監督は平田の本を読み、方法論などがすでに頭に入っている。そこから大前提に立ち返るのは難しいことではなかったのだろうか。 |