――『ワン・デイ』では、80年代末から2011年まで時代背景に幅がありますが、それぞれの時代の空気をつかむためにリサーチなどをされたのでしょうか。時代の違いを印象付けるために心がけたことがあったら教えてください。
「時間の変化をなるべく大げさに表現しないように気をつけました。時間の進み方が早いので、変化の表現を微妙にすることでなるべくラブストーリーに集中してもらえるようにしました。そのなかで、時の流れを表現するのに音楽が役立ちました。毎年一曲、その年を代表するような曲を選びました。誰もが選ぶような曲ではないかもしれませんが、いつ頃の曲かすぐ分かって、思い出が蘇ってくるような印象的な曲を選ぶようにしました。時間の流れをなるべく目立たないようにすることで、映画の最後の方でようやくどれだけ時間が経ったかわかるような構成になっていると思います。
ジョン・レノンは昔「あれこれ準備しているうちに過ぎていくのが人生だ」と言っていましたが、まさにそういうことです。実はこの映画の音楽はアビーロード・スタジオで録音しており、劇中の音楽のピアノはビートルズが<Lady Madonna>を録音した時に使ったピアノと同じものでした。とても楽しい思い出です。あまりにも楽しくて仕事だとは思えない、そういう瞬間でした」
――『17歳の肖像』の音楽については、脚本を手がけた音楽通のニック・ホーンビーから的確なサジェスチョンがあったと聞いています。『ワン・デイ』のサントラでは、エルヴィス・コステロの新作<Sparkling Day>と昔の曲<Tear Off Your Own Head>の他、Tears For Fears、Black Grape、Primal Scream、Fatboy Slim、Trickyなど、いまおっしゃったようなそれぞれにある時代を想起させるような曲が盛り込まれていますが、選択で迷うようなことはなかったのでしょうか。
「選曲には長い時間かかりました。イギリス人のみならず、アメリカ人にとっても懐かしいような曲を選びたかったのでそれが大変でした。音楽と編集スタッフはイギリス人だったのですが、みんなでいろんな曲をシーンに当てはめてみて、そのキャラクターがラジオやレコードで聞くならばどの曲が相応しいか、考えました。歌詞も合わせたかったので、時には2曲当てはめてみてその相性を試してみたりしました。とても面白い、良いチャレンジになりました。
私は現代の音楽をよりもクラシック音楽に詳しいので、今回の私の役目は曲のリズムや感情や音がそのシーンに合っているかを判断することでした。ポップミュージックに詳しい人にとってそれぞれの曲がどういう意味合いを持っているかがわかりませんでしたので、私にとっては大変な作業でした。しかし、興味深い、やりがいのある作業でした。私にとって音楽は手助けを必要とする分野です。自分の直感よりも、詳しい人の意見を大切にしています」
――シェルフィグ監督が紡ぎ出すドラマには、独特のドライなユーモアを感じます。それをデンマーク的とか北欧的といってよいのかわかりませんが、ご自分ではある程度、国民性に根ざしたユーモアが作品に出ていると思われますか。
「イギリスでは昔から人とのコミュニケーションにおいてユーモアが大事だったと思います。ウィットに富んだ人が多いと思います。この脚本に惹かれた一つの理由が、エマがそういう人だったことです。ウィットとユーモアに富んだ、素晴らしい女性でした。ドラマティックな人生を送っているのにユーモア溢れるキャラクターで、私はエマのそういうところが好きになりました。
ユーモアに国民性があるのかはわかりませんが…。ユーモアとは物事を違った視点で見ることだと思います。一本の映画の中で最初から最後まで同じようなユーモアを使うことはできません。驚きも必要なので、ユーモアにも変化をつけなければなりません。過去にはもっとユーモアたっぷりの作品を撮ったことがあります。『ワン・デイ〜』は基本的にはラブストーリーで、その上ユーモアのある作品になっています。若い頃にはもっとドタバタした、人がベッドの下に隠れたりするような作品も撮っています。しかし、個人的には少し控えめのユーモアが好きです」 |