大森一樹インタビュー
Interview with Kazuki Omori


2011年1月 東銀座
津軽百年食堂――2010年/日本/カラー/106分/ヴィスタ/DTSステレオ
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 東京から故郷・弘前に帰郷し、葛藤を乗り越えて百年続いた津軽の食堂の四代目になる陽一の物語と、明治末期に食堂を開業する初代・賢治の物語が並行して描かれ、最後に結びつく。その構成は同じだが、映画には原作にない様々な要素が盛り込まれている。まず陽一の祖母が過去と現在を繋ぐ重要な役割を果たす。東京で陽一と出会い、恋人になるカメラマンのアシスタント・七海の実家は原作のようにリンゴ農家ではない。また明治の博労が意外なところで現在と繋がる。

「祖母が(明治時代の)あの娘やったというのもオリジナルですね。原作って食堂の話ですけど、それだけじゃ持たないだろうって。ロケハンでさくらまつりに行って、あのバイク(のアトラクション)を見て、あんなのあるんだってびっくりしましたよ。とても思いつかないし、あれをわざわざ作ったらえらいことですよ。それで入れることにしたんです。原作に馬喰が出てくるんで、その子孫ということで馬からバイクへの縦の繋がりを作った。廃墟のようになっている建物もロケハンで見つけて、昔の写真館にすることにして。七海と父親の写真館という縦の流れを作っている。原作には写真館なんか出てこないからね。あれ素晴らしい建物ですよ、オーナーが汚いから見ないでくれっていってたけど、あの汚れ方がすごくいい感じで、そのまま使いました」

 『恋する女たち』(86)の金沢、『走れ、イチロー』(01)の神戸、『悲しき天使』(06)の別府、そしてこの映画の弘前と、大森監督の作品では地方の風土や景観が印象に残る。

「それはこだわりありますよ、しかも自分で上手いんじゃないかと思ってます。地方に行くと映画が弾むっていうかな。弘前には20年前に『満月 MR.MOONLIGHT』(91)で行っているんですけど、そのときよりも街を撮るのがずっと上手くなったなって。やはり最後の撮影所を体験している世代でしょ、撮影所の映画ってとにかくセットに持っていきたがるじゃないですか。だから絶対にそこでないと撮れないようなシチュエーションとか画を考えないと、それだったらありますからって撮影所周辺に戻されてしまう。それが映画会社の映画なんですよね。ところが、今の日本映画にはそういうことがないから、これ地方に行かなくても撮れるじゃない、お金使って地方・国外が何も撮れてないと思う。こんなことでいいのかなっていう感じですね。きっと不満を抱いているんだね」

■■受け継がれるべき「青春映画」■■

 それでは、現在ではなく、明治時代を背景にしたドラマでは、どのようなことを念頭に置いていたのだろうか。


 
―津軽百年食堂―
 
◆スタッフ◆
 
監督/脚本   大森一樹
脚本 青柳祐美子
原作 森沢明夫
撮影 松本ヨシユキ
編集 宇賀神雅裕
音楽 坂本サトル
 
◆キャスト◆
 
大森陽一   藤森慎吾
大森賢治 中田敦彦
筒井七瀬 福田沙紀
藤川美月 ちすん
大森哲夫 伊武雅刀
大森明子 藤吉久美子
浅尾大介 大杉漣
浅尾美音子 かとうかずこ
青木真一 野村宏伸
筒井有里子 手塚理美
トヨ 早織
門田宗八 前田倫良
門田政宗 永岡佑
-
(配給:日活/リベロ)
 


「明治の部分については、日露戦争が終わったあとの青森というのがあったんじゃないですかね。ちょうど玉岡かおるさんの『お家さん』という原作をいただいて、神戸の鈴木商店の話ですが、その脚本を書いていたこともあって、明治というと日露戦争の後の時期が思い浮かんでくるんですね。戦争には勝って元気はあるけれど、傷ついた人たちがたくさん戻ってきてちょっと悲しい時代という感じですかね」

 『世界のどこにでもある、場所』では、境界で揺れている人々がそれぞれに居場所を探していた。『津軽百年食堂』の陽一や七海も、どこでどう生きるべきなのか、その場所を探しているように見える。

「たぶんこれはもとの脚本にあったと思うけど、二人が同じひとつの屋根の下に住んじゃう、まずあの(東京の)部屋があって、その次に(弘前の)写真館があって、最後に二人で一緒に住むところを探しているというか。最後気に入っているんですけどね、ふたりペンキ塗っているところが。そういう意味では、今の男の子と女の子が一緒にいる場所はどこなのか考えていこうというのはありました。あれは『ジョンとメリー』(69)なんですよね。朝起きると一緒にいました、二人で喧嘩ばっかりしているみたいな。『ジョンとメリー』ってあらためて観ると、こんな映画だったんだなあって」

 この物語では、蕎麦や食堂や家族を通して伝統が描かれるが、大森監督はそんな題材のなかに別の伝統を表現する可能性を見出していた。

「(映画のキャッチコピーを指さして)「受け継がれていく日本人の心と味」ってあるでしょ、「心と味」、それと「青春映画」なんですよね。やっぱり70年代の日活の藤田(敏八)さんでしょ、それから松竹の山根(成之)さん、東宝でまあ大作を撮っていたけど森谷(司郎)さんとか、ああいう青春映画をじゃ誰が受け継いでいくんやと。いまの日本映画には目を覆いたくなる、たぶん彼らは知らないんだと思うんやけど、かつて70年代に僕らが胸をときめかせたものをね。それを誰もやらないのなら僕なんかがやっていかないとあの日本の青春映画っていうのはなくなってしまうんではないかっていうことですね。もう還暦まえで、青春映画なんていってられないのに(笑)」

 今回のインタビューは、「両方ご覧になった? バラバラでしょう、ハハハハハ」という大森監督の言葉と大笑いから始まった。確かに2本の新作は設定も表現もまったく違うが、バラバラというわけではない。このインタビューの様々な発言を踏まえるなら、8ミリ少年からスタートした大森監督が、洋画やATGや撮影所などを通して引き継いできた多様な遺伝子が、まったく異なるかたちで表われていることがおわかりいただけるだろう。

 
 
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(upload:2011/06/04)
 
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