――ヘドウィグのキャラクターに誰かモデルになった人はいるのでしょうか。
「カンザスに暮らしていた十四歳の頃に知っていたベビーシッターがモデルになっている。ヘドウィグのヴィジュアル・イメージのもとになったということだけど。彼女は兵士と結婚したドイツ系の女性で、トレイラーハウスに暮らしていて、ベビーシッターだけでなく、娼婦でもあった」
――『ヘドウィグ〜』の物語では“1インチ”が重要なポイントになっていますが、このアイデアは何か具体的なエピソードがヒントになったのでしょうか。
「いや、具体的なエピソードというのはなかった。まずこの物語を作っていくうえで、いくつか影響を受けたことがある。ひとつは、自分の一部が切り取られるという経験を意味する愛の神話だ。それから、私の父親がベルリンで司令官をやっていたということ。ベルリンは分割された都市だったからね。それとこの物語を練り上げているときに、ドラッグクィーンのクラブを使っていたこと。そこではセクシュアリティが非常に流動的なものになっていた。こうした様々な影響が頭のなかでひとつになり、ヘドウィグにとって最も重要な出来事である性転換手術というアイデアが浮かんできたんだ」
――プラトンの「饗宴」をヒントに、人間が自分の失われたかたわれを求めて彷徨うという“愛の起源”の話は、強い印象を残しますが、あなたは宗教的に厳格な家庭で育ったのでしょうか。そういう環境で育つと、宗教を受け入れるだけではなく、それを独自に発展させるということもあると思うのですが。
「確かにその通りで、カトリックの厳格な家庭で育ち、学校もずっとカトリック系の学校に通った。それでカトリックの儀式的な要素や神話が大切だという気持ちがいまでも残っている。トミー・ノーシスという名前もグノーシスからきている。私には、あの(映画に挿入される)アニメに描かれた創世記の方が、聖書に書かれたものよりも身近に感じられる。グノーシス派のキリスト教徒は、まさにあのプラトンの愛の起源についても語っているし、他のキリスト教徒に比べると、もっと東洋的な陰陽に関心を持ったり、外的な規律や関係よりも内面的な探求を重視していたから」===>2ページに続く |