熊切和嘉監督の『青春☆金属バット』の主人公である27歳の難馬邦秋は、コンビニのバイトさえまともにこなせない不器用な人間だ。ずっと所沢に暮らし、バイト先と古いアパートを往復し、友だちもなく孤独な生活を送っている。このダメ人間を支えているのは金属バットだ。高校時代に野球部で万年補欠だった彼は、いまもバッティングセンターに通いつづけ、究極のスイングを目指している。そんな彼は、いつも呑んだくれている凶暴な女エイコに出会い、彼女に振り回されるうちに、“バット強盗”の二人組と呼ばれている。
熊切監督の映画は、作品によって題材も雰囲気も変わるが、女と男の力関係には共通点がある。サディスティックな女とマゾヒスティックな男の関係が、物語を展開させ、ダイナミズムを生み出す原動力になっている。
『鬼畜大宴会』では、ナイーブな男たちが、どんどん凶暴になるマサミにどこまでもいたぶられ、悲惨な最期を遂げていく。『空の穴』では、過去に深くとらわれていることすら自覚していない市夫が、彼のもとに転がり込んできた妙子に必死にすがりつこうとすることで、出口を見出していく。『アンテナ』では、明らかに過去にとらわれている祐一郎が、SMの女王ナオミとの支配と服従の関係という妄想によって、自分のなかにある痛みの源を見極めていく。
『青春☆金属バット』の難馬も、エイコに徹底的に振り回される。難馬のアパートに居座る彼女は、彼のささやかな貯金を勝手に使ってテレビを購入し、ドラゴンズが負けると、八つ当たりで彼の顔面にパンチを見舞う。酒代がなくなると、コギャルから金を奪い、彼は強盗の片棒をかつがされる。さらにふたりは、彼女の悪ふざけで、試乗した新車を傷つけてしまい、借金を背負うはめになる。
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