乱暴と待機


2010年/日本/カラー/97分/ヴィスタ/DTSステレオ
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(初出:月刊「宝島」2010年11月号、若干の加筆)

男女の日常は不自然で滑稽ではあるが
そこには切実な感情が潜んでもいる

 演劇界・文学界で注目を集める本谷有希子の作品の映画化は、この冨永昌敬監督の『乱暴と待機』が、吉田大八監督の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』に続いて二度目となる。本谷ワールドの登場人物たちは、陰湿で狡猾で醜悪で、哀しく滑稽でもある。

 映画『腑抜けども〜』に登場する姉妹の姉は、彼女の恥を漫画にして暴露した妹に執拗な嫌がらせで報復する。だが、この姉妹の関係はそれほど単純ではない。姉は自分に都合の悪いことを押しつけるために妹を必要としている。その一方で妹は姉が傲慢で邪悪になるほど創作意欲をかき立てられる。つまり、彼女たちはお互いに相手に依存しているのだ。

 その男女は、なぜか兄妹を装い、深い関係になることもなく、覗く男と覗かれる女として共同生活を送っている。そして、久しぶりに再会した女同士の過去の因縁がきっかけとなって、夫婦と男女が複雑に絡み合っていく。閉塞感漂う六畳間で、あるいは二段ベッドと天井裏の間で、視線や憎しみ、欲望が交錯していくのだ。

 夫婦を巻き込むこの男女の関係は実に興味深い。彼らは、それぞれに利己的な目的があって相手に依存しているわけでも、窃視行為の刺激に酔っているわけでもない。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   冨永昌敬
原作 本谷有希子
撮影 月永雄太
音楽 大谷能生
 
◆キャスト◆
 
山根英則   浅野忠信
緒川奈々瀬 美波
番上あずさ 小池栄子
番上貴男 山田孝之
-
(配給:メディアファクトリー、ショウゲート)
 

 彼らが心のどこかで求めているのは、持続可能な関係だが、「愛」という曖昧なものがその根拠になるとは思っていない。そこで愛の代わりに過去の悲劇に縛られ、片や復讐を誓い、片や復讐を待ち望み、共有する時間が延長されていく。

 この男女の日常は不自然で滑稽ではあるが、そこには切実な感情が潜んでもいる。冨永監督は、映像と音楽の絶妙なバランスでそれを引き出してみせる。


(upload:2013/01/11)
 
 
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『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』 レビュー ■

 
 
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