オーケストラ!
Le Concert  Le concert
(2009) on IMDb


2009年/フランス/カラー/124分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:「CDジャーナル」2010年5月号、EAST×WEST11)

 

 

“究極のハーモニー”が意味するものとは

 

 『オーケストラ!』は、2007年公開の『約束の旅路』で注目されたラデュ・ミヘイレアニュ監督の新作だ。その主人公は、ロシア・ボリショイ交響楽団で、劇場清掃員として働くアンドレイ。かつて主席指揮者だったこの男は、1980年に起きたある事件で解雇され、その後30年、復帰を夢見ながら不遇の人生を歩んできた。

 そんな彼は支配人の部屋で、パリのシャトレ劇場から送られた出演依頼のFAXを目にし、起死回生のアイデアを思いつく。同じように苦汁をなめた昔の仲間たちを集め、ボリショイ交響楽団になりすまし、パリに乗り込もうというのだ。

 ミヘイレアニュ監督の作品には、観客を引き込み、心を動かす際立った洞察と活力がある。彼は様々な史実にインスピレーションを得て、独自の世界を切り開く。『約束の旅路』では、エチオピアのユダヤ人をイスラエルに移送する「モーセ作戦」という史実を出発点に、生きるためにユダヤ人になりすました主人公の葛藤が描き出された。

 この新作では、ブレジネフ政権下で、ボリショイ交響楽団からユダヤ人が排斥され、それに反対したロシア人も解雇されたという史実がヒントになっているという。確かにブレジネフ時代には、反ユダヤの政治的な運動が繰り広げられていた。

 ミヘイレアニュがそうした史実にこだわるのは、個人的な体験と無縁ではない。彼はルーマニアのブカレストでユダヤ系の家庭に生まれ、1980年にチャウシェスク独裁政権下の祖国から亡命し、フランスを拠点に活動するようになった。先述した彼の作品の洞察や活力は、そんな体験から発展してきたといえる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ラデュ・ミヘイレアニュ
Radu Mihaileanu
共同脚本 アラン=ミシェル・ブラン、マシュー・ロビンス
Alan-Michel Blanc, Matthew Robbins
原案 ヘクトール・カベッロ・レイエス、ティエリー・デグランディ
Hector Cabello Reyes, Thierry Degrabdi
撮影監督 ローラン・ダイアン
Laurent Dailland
編集 ルドヴィク・トロフ
Ludovic Troch
音楽 アルマン・アマール
Armand Aman
 
◆キャスト◆
 
アンドレイ・フィリポフ   アレクセイ・グシュコブ
Alexei Guskov
サシャ・グロスマン ドミトリー・ナザロフ
Dmitry Nazarov
アンヌ=マリー・ジャケ メラニー・ロラン
Melanie Laurent
オリヴィエ・デュプレシス フランソワ・ベルレアン
Francois Berleand
ギレーヌ・ドゥ・ラ・リヴィエール ミュウ=ミュウ
Miou Miou
イヴァン・ガヴリーロフ ヴァレリー・バリノフ
Valeri Barinov
イリーナ・フィリポヴナ アンナ・カメンコヴァ
Anna Kamenkova
ジャン=ポール・カレル ライオネル・アベランスキ
Lionel Abelanski
ヴィクトール・ヴィキッチ アレクサンダー・コミッサロフ
Alexander Komissarov
“トゥル・ノルマン”のオーナー ラムジー・ベディア
Ramzy Bedia
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(配給:ギャガ)
 

 この新作で筆者が注目したいのは、アンドレイが求める“究極のハーモニー”だ。彼はソリストとしてパリ在住のスターヴァイオリニスト、アンヌを指名し、最後に真の目的が明らかにされる。しかし、究極のハーモニーは、過去の悲劇と再生だけを意味するわけではない。

 彼らが演奏するのは、弱者に共感を示したチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲であり、映画にはクラシックの名曲だけではなく、ナチスやチャウシェスク政権下で排斥されてきたユダヤ人やロマに結びつく音楽も挿入される。ひとつになる楽団は、ミヘイレアニュが望む社会の姿でもあるのだ。


(upload:2010/06/30)
 
 
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