渡辺あやが脚本を手がけた作品では、主人公たちの距離に独自の視点を感じる。その距離が生み出すドラマには、意外性と日常性が不思議なバランスで絡み合っている。主人公たちは最初は相手に対してよい印象を持っているとはいえない。それでも接近していくのは、そこに何か別の事情があるからだ。しかしやがて彼らは、そんな関係のなかで自分が自然体になれるような居心地のよい場所を見出していくことになる。
『ジョゼと虎と魚たち』で、気ままな大学生の恒夫と脚の不自由なジョゼは、偶然に出会ったときにお互いによい印象を持つわけではない。だが恒夫は、やたらと美味いご飯を目当てに彼女の家を訪れるようになる。そしていつしかそこが居心地のよい場所に変わっている。
『メゾン・ド・ヒミコ』で、父親を憎む沙織が、その父親のために奔走する春彦に好感を持つはずもない。彼女はあくまで金のために春彦の誘いに乗り、父親の老人ホームを手伝う。だが、個性的で陽気に振る舞うゲイの老人たちと過ごすうちに、そこが居心地のよい場所に変わっていく。
そして、『ノーボーイズ、ノークライ』からも、意外性と日常性が絡み合う魅力的なドラマが浮かび上がってくる。ヒョングと亨のキャラクターは見事に対照的だ。ヒョングには暗い過去があるが、悩んだり考え込んだりせず、彼のボートが象徴しているように流れに身をまかせて生きている。亨は寡黙で無愛想で、後に明らかにされるように、土地や家族に縛られている。彼らには請け負った仕事の繋がり以外に接点がない。
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