殺人という重罪を犯し、人生を諦めていた囚人コリンとその仲間たちは、囚人の自主性を尊重する更生刑務所の中で、ささいな出来事からガーデニングの魅力に目覚める。コリンは庭師としての才能を開花させ、彼が率いる囚人チームは、ハンプトンコート・パレス・フラワーショウに出場するチャンスをつかむ。
『グリーンフィンガーズ』は、ガーデニングの国イギリスならではのユーモアに満ちた佳作だ。飄々とした人柄で、コリンをガーデニングに導き、囚人たちをまとめていく老人に扮するデヴィッド・ケリーや、いきなり刑務所に案内されて唖然とするものの、個性的な庭園に魅了され、囚人たちを支援する園芸の専門家に扮するヘレン・ミレンなど、役者たちもそれぞれに実にいい味を出している。
イギリスのようにガーデニングの歴史と伝統がある国では、人工的な庭園と自然を尊重した庭園の優劣をめぐる論争が何度となく繰り返されてきた。この映画の山場もそのことを思いださせる。主人公たちは紆余曲折を経て、やっとフラワーショウへの切符をつかむものの、ガーデニングの心得があるという政府のお偉方がしゃしゃり出てきて、出品する庭園のテーマを押しつける。
それは刑務所をモチーフにしたロック・ガーデンで、その人工的なたたずまいは、人間を強制することが更生につながるという印象を与える。しかし囚人チームは、土壇場になって、それを自分たちの庭園に作り変える。そのテーマは”野生の草花が散りばめられた高速道路の土手”である。
イギリスではサッチャリズムによって経済が立ち直り、それとともにガーデニングも著しくファッション化したといわれる。 要するに、金にものをいわせ、極めて人工的で華美な庭園が流行りだしたわけだ。
そのことを踏まえてみると、囚人チームの庭園は、物質主義と消費社会の不毛な世界で見つけたオアシスのように見えてくるのである。アメリカ人のプロデューサーや監督が、イギリス人のスタッフ、キャストと手を組んで、こういう映画を作ってしまうというのがまた面白い。
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