[ストーリー] トレーラーハウスでアル中のリハビリをしながら細々と暮らす男、ジョン・リンク。血生臭い世界から足を洗った元犯罪者の彼のもとに現れたのは、数年前から行方不明になっていた一人娘リディアだった。
ギャングとトラブルを起こし、警察にも、殺し屋にも追われる娘を守るため、父親は、これまで培ったアウトローのサバイバル術を駆使して迎え撃つことを決意する!
[以下、本作のレビューになります]
ジャン=フランソワ・リシェ監督の『ブラッド・ファーザー』は、小説家/脚本家のピーター・クレイグが2005年に発表した同名小説を映画化したアクションスリラーであり、人間ドラマでもある。その物語はあくまでフィクションだが、設定や登場人物にはアメリカ社会の周縁の現実が様々なかたちで反映されている。
筆者がこの映画を観ながら真っ先に思い出したのは、昨年公開されたマシュー・ハイネマン監督の『カルテル・ランド』のことだった。このドキュメンタリーでは、メキシコの麻薬カルテルが武装殺人集団に変貌を遂げ、一般市民も巻き込まれるような状況のなかで、メキシコとアメリカの双方で行動を起こす市民の姿が描き出されている。
アメリカ側では、国境の近くに暮らす住人たちが、国境を越えて活動する麻薬カルテルに対して危機感を募らせ、自警団を結成して自分たちの生活を守っている。『ブラッド・ファーザー』でも、主人公ジョンのトレーラーハウスが、リディアを追う麻薬カルテルの一味に襲撃されたとき、父娘はいち早く駆けつけた自警団によって救われる。
但し、筆者が注目したいのは、麻薬カルテルと自警団の関係だけではない。メキシコ側では実際に悲惨な事件が頻発しているが、アメリカ側では自警団が、不法移民を拘束することはあっても、麻薬カルテルと遭遇して、銃撃戦を繰り広げるような事態にはならない。自警団は過剰な情報に扇動されているようにも見える。そこでハイネマン監督は、自警団の中心人物のひとりであるティムという男を追いかけ、身の上話を引き出していく。
父親から虐待されていたティムは、15歳で家を飛び出した。やがて結婚し、娘たちの父親になるが、心の傷は癒えず酒と麻薬に溺れる。そんなある日、酔って車を運転して死にかけ、財布に入れた子供たちの写真を見て目覚める。立ち直った彼は工事現場で働くが、金融危機で仕事も家も失い、車で放浪するようになる。彼が訪れる工事現場はどこも不法移民が働いていた。そして、不法移民と麻薬の流入をカルテルが支配していると知った彼は、自警団として活動するようになった。
アメリカ社会の周縁に追いやられ、辺境で暮らす人々は、それぞれに重い過去を背負い、自分の人生を立て直そうともがいている。そんな彼らは必ずしも現実を正確に認識しているわけではないが、行動することが救いになっている。 |