ブルックリン
Brooklyn Brooklyn (2015) on IMDb


2015年/アイルランド=イギリス=カナダ/カラー/112分/ヴィスタ/
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(初出:「CDジャーナル」2016年)

 

 

旧世界と新世界、過去と未来、
伝統と夢の狭間で自分の道を切り拓く

 

[ストーリー] 夢と仕事を求めてアメリカに移り住む人は、第2次大戦後も後を絶たない。その入り口でもあるニューヨーク、1950年代のブルックリンにアイルランドからやってきたエイリシュは高級デパートで働き始めるが、新生活にとまどい、故郷からの手紙を読み返してはホームシックに。

 やがて大学で学び、新しい恋と出会うと笑顔を取り戻し、驚くほど洗練された女性に変わっていくのだが――ある日、突然の悲報でアイルランドに戻った彼女を家族や友だちの優しさと、運命的な再会が待ちうけていた――。[プレスより]

[以下、レビューになります]

 『BOY A』で評価されたジョン・クローリー監督の新作『ブルックリン』では、1950年代のアイルランドとニューヨークのブルックリンというふたつの世界をめぐって物語が展開していく。

 アイルランドの田舎町で窮屈な生活を送るヒロインのエイリシュは、仕事と自由を求めてアメリカに渡り、高級デパートで働き始める。新天地では戸惑うことも多く、激しいホームシックにも襲われるが、彼女はそれを乗り越え、洗練された女性へと変貌を遂げ、トニーという恋人もできる。

 しかしそんなある日、故郷から悲報が届く。帰郷した彼女を待っていたのは悲しみだけではなく、幼なじみのジムとの再会をきっかけに彼女の心は揺れていく。

 この映画では、新世界と旧世界、ふたりの男性の間で人生の選択を迫られるヒロインを通して、アメリカ人になること、さらにはアメリカの夢とは何なのかが巧みに掘り下げられている。

 アメリカの夢は必ずしも成功することを意味するわけではない。社会学者トッド・ギトリンは『アメリカの文化戦争』のなかでそれを説明するために、ジャーナリストのウォルター・リップマンの以下のような言葉を引用している。

アメリカを統一するものは過去に対する憧れや畏敬ではなく、確かな目的意識と子孫にもたらす運命の強い自覚である。アメリカは常に国家であると同時に夢でもあった


◆スタッフ◆
 
監督   ジョン・クローリー
John Crowley
脚色 ニック・ホーンビィ
Nick Hornby
原作 コルム・トビーン
Colm Toibin
撮影監督 イヴ・ベランジェ
Yves Belanger
編集 ジェイク・ロバーツ
Jake Roberts
音楽 マイケル・ブルック
Michael Brook
 
◆キャスト◆
 
エイリシュ・レイシー   シアーシャ・ローナン
Saoirse Ronan
ジム・ファレル ドーナル・グリーソン
Domhnall Gleeson
トニー・フィオレロ エモリー・コーエン
Emory Cohen
フラッド神父 ジム・ブロードベント
Jim Broadbent
キーオ夫人 ジュリー・ウォルターズ
Julie Walters
-
(配給:20世紀フォックス映画)
 

 多民族の集団では過去に共通性を求めることができない。だから未来を共有するための特別な夢や期待を必要とする。

 ブルックリンでヒロインの恋人になるトニーはすでにその夢を生きている。彼はイタリア系でありながら、アイルランド系移民のパーティに潜り込み、彼女に迫る。彼の一家の食卓は伝統的だが、彼と兄弟は野球というアメリカ文化に熱中している。そして彼は、まだ何もない土地でゼロから商売を始める夢を抱いている。

 これに対して、ヒロインはまだアメリカの夢なるものに目覚めてはいない。だから故郷で再会したジムが生きる伝統の世界に懐かしさや心地よさを覚えてしまう。そんな彼女は、過去と未来、伝統と夢の狭間で、引き裂かれるような思いを味わいながら自分の道を切り拓いていく。

《参照/引用文献》
『アメリカの文化戦争――たそがれゆく共通の夢』トッド・ギトリン●
疋田三良・向井俊二訳(彩流社、2001年)

(upload:2016/10/29)
 
 
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