安藤監督は、友情とか恋愛というような言葉では単純に割り切ることができない人間同士の繋がりというものに強い関心を持っているようだ。
この『blue』に先行して公開されることになった97年の監督作『pierce/LOVE&HATE』からは、やはり恋愛でも友情でも割り切れない男女の奇妙な関係が浮かび上がってくる。ヒロインの奈穂は、声をかけてくる男とホテルに行き、男を殺して金を奪い、ブランドものの服を買い漁る。彼女は、作ったピアスを売って気ままに暮らす学の家に入り浸っているが、彼は奈穂の友だちでもある純子と付き合っている。その一方で奈穂は、ホテルで殺し損ねたフリーライター中谷明彦に心を許すようになる。そして、奈穂とそれぞれの人物との関係の変化が、他の関係にも微妙な作用を及ぼし、崩壊へと向かっていく。
女子高を舞台にした『blue』とはまったく異質な世界だが、2本の映画には細部にいくらか似通ったシチュエーションがある。『blue』で、合コンに参加した桐島は、その後で少年に誘われるままにホテルに行ってしまうが、彼女の心はそこにはない。『pierce/LOVE&HATE』では、奈穂がカモと入ったホテルの外で、彼女を尾行する学や彼女から電話で呼びだされた中谷がじっとたたずむ。こうした符合は、人と人の繋がりに対する特別な関心と無縁ではないだろう。
映画『blue』が、ミニマルな表現に徹した原作の魅力に引きずられることなく、独自の世界を構築しているのは、原作の本質を監督自身の関心からしっかりととらえなおしているからだ。この原作を映画にするなら、できるだけふたりのヒロインに寄りたくなりそうなものだが、この映画はむしろ意識して彼女たちから距離を置いている。いや、距離を置くのではなく、海岸や夜の街、海沿いの道路といった風景のなかにあるふたりの姿を、計算された美しい構図でとらえている。そんな映像からは、彼女たちの微妙に揺れる想いが鮮やかに浮かび上がってくるのだ。
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