第二次世界大戦前夜の1937年、ドイツの巨大旅客飛行船ヒンデンブルグ号が、アメリカのニュージャージー州で着陸寸前に爆発炎上、地上作業員を含む36人が犠牲になった。飛行船の黄金時代に終止符を打つことになったこの大惨事は、20世紀に起きた世界的な大事故のひとつとして語り継がれている。しかし、その原因については諸説が飛び交い、いまだに特定されていない。
フィリップ・カーデルバッハ監督の『ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀』は、この大惨事を題材にした歴史ミステリーだ。
ヒンデンブルグ号の設計技師マーテンは、母とドイツを訪れていたアメリカの石油会社の社長令嬢ジェニファーと恋に落ちる。そんなときアメリカで飛行船用のヘリウムの輸出解禁に向け奔走していた彼女の父エドワードが病に倒れ、ジェニファーらは急遽、ヒンデンブルグ号で帰国することに。しかし、その便には爆弾が仕掛けられていた。マーテンは、ジェニファーの婚約者フリッツ殺害の容疑で追われる身となり、ヒンデンブルグ号に飛び乗り、船内に潜んで行動するうちにとてつもない陰謀に気づく。
元々テレビ映画として製作されたこの作品には、グレタ・スカッキやステイシー・キーチといったベテラン俳優も出演している。180分のテレビ版を110分に刈り込んでいるので、いきなりそこまで進展するかと思うところもないではないが、手堅い演出で破綻はしていない(IMDBでは、180分版の評価に酷評が目立つので、逆にメリハリが備わったとも考えられる)。
70年代に同じ大惨事を題材にしたロバート・ワイズ監督の『ヒンデンブルグ』という作品があった。細部までは覚えていないが、あの映画の場合は、飛行船に爆弾を仕掛ける目的は“反ナチス”だった。一方、本作の場合には、グローバリゼーションの時代を意識したような経済に関わる背景が盛り込まれているところが印象に残る。
一番の見所はもちろん、事故の真相をめぐるサスペンスと爆発炎上のスペクタクルだが、物語から察せられるように、マーテンとジェニファーを主人公にしたラブストーリーにもなっている。プロローグでは、自家製のグライダーが失速して、空から落ちてくるマーテンを、偶然そこに居合わせたジェニファーが救い、クライマックスの大事故ではその立場が逆になる。スペクタクルとラブストーリーを結びつけたヒンデンブルグ版『タイタニック』と見ることもできる。 |