ベティ・ペイジ
The Notorious Bettie Page


2005年/アメリカ/カラー・モノクロ/91分/アメリカンヴィスタ/ドルビーSRD
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(初出:日本版「Esquire」2008年2月号、若干の加筆)

 

 

伝説のピンナップ・ガールの
はじけるような笑顔の秘密

 

 女性監督メアリー・ハロンの『ベティ・ペイジ』では、保守的な価値観が支配し、性が抑圧されていた50年代を背景に、伝説のピンナップ・ガールの魅力が掘り下げられていく。

 女優になるために南部のナッシュビルからニューヨークに出て、モデルの道を歩みだしたベティ。そんな彼女とアマチュア・カメラマンがデートする場面に、このヒロインのユニークさがよく表れている。

 ふたりは人けのない場所で撮影を始めるが、彼女はカメラマンの期待を軽々と飛び越えてしまう。自分から率先して服を脱ぎだし、あれよあれよという間に全裸になってポーズをとる。しかも、この上なく楽しげに。

 この映画のもとになったリチャード・フォスターの伝記には、こんな記述がある。「ベティは裸になることを本当に心地よく感じていて、彼女を撮影した者はみんな彼女を本物の自己表現者と呼んだ。50年代という極度にモラルが厳しかった時代、ベティはある種のタブーを打ち壊した。なぜ彼女にそれができたのだろう


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   メアリー・ハロン
Mary Harron
脚本 グィネヴィア・ターナー
Guinevere Turner
撮影 モット・ハップフェル
Mott Hupfel
編集 トリシア・クック
Tricia Cooke
音楽 マーク・スオッゾ
Mark Suozzo
 
◆キャスト◆
 
ベティ・ペイジ   グレッチェン・モル
Gretchen Mol
アーヴィング・クロウ クリス・バウアー
Chris Bauer
ジョン・ウィリー ジャレッド・ハリス
Jared Harris
バニー・イェーガー サラ・ポールソン
Sarah Paulson
マキシー カーラ・セイモア
Cara Seymour
エステス・キーフォーヴァー デヴィッド・ストラザーン
David Strathairn
ポーラ・クロウ リリ・テイラー
Lili Taylor
ビリー・ニール ノーマン・リーダス
Norman Reedus
-
(配給:ファントム・フィルム)
 

 女性監督のハロンは、独自のベティ像を作り上げていく。原作では、父親による性的虐待の影響が示唆されている。だがハロンは、そうした幼少期のトラウマには注目しようとはしない。後の集団レイプ事件についても、それをドラマに盛り込んではいるものの、決して強調していない。

 映画の前半に描かれるように、ベティは南部のナッシュビル出身で、信仰に厚く躾に厳しい家庭で育った。男の子とデートすることも許されなかった。天真爛漫なピンナップ・ガールの彼女を、そんな生活の反動と見る向きもある。

 しかし、ハロンの解釈は違う。「神が自分に裸になる才能を与えてくれた」という台詞が物語るように、ベティのなかでは信仰と裸が両立していた。人々を抑圧していたのはピューリタンのアメリカだが、ベティにもまた神がついていた。彼女のあのはじけるような笑顔の秘密は、実はそんなところにあるのかもしれない。

《参照/引用文献》
『ザ・リアル・ベティ・ペイジ』 リチャード・フォスター●
伴田良輔訳(アップリンク、2000年)

(upload:2012/07/03)
 
《関連リンク》
水のイメージと裸体、欲望、そして自己の本来の姿
――『まぼろし』と『天国の口、終りの楽園。』をめぐって
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