ポール・シュレイダーの新作『ザ・ハリウッド』は、クリスチャンとタラ、ジーナとライアンという二組の男女がヒップなレストランで会話する場面から始まる。クリスチャンは映画のプロデューサーで、タラは彼のガールフレンド、ジーナはクリスチャンのアシスタントで、ライアンは彼女のボーイフレンドだ。この映画では、ドラマの展開とともにそんな関係が崩れていく。
女優志望のヒロイン、タラは、クリスチャンと豪邸に暮らしている。それはセレブの優雅な生活だが、彼女は必ずしも幸福ではない。クリスチャンには歪んだ性癖があるからだ。そんな彼女は、ライアンに救いを求める。実は二人は数年前、ともに演技の勉強に励み、愛し合う仲だった。
そして、クリスチャンがタラに疑いの目を向けたとき、男女の愛憎と映画作りが絡み合う。ライアンは、クリスチャンが企画している映画に出演することになっていたからだ。
シュレイダーはこれまで様々なシチュエーションで主人公のオブセッションを掘り下げてきた(それについては『ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター』レビューに詳しく書いいているので、ここでは省略する)。この映画でも、タラの動向を徹底的に監視するようなクリスチャンのオブセッションが、最終的に血まみれの暴力にエスカレートしていく。
さらに、もうひとつ見逃せないのが、「映画の現在」に向けられたシュレイダーの眼差しだ。この映画の冒頭では、ドラマとは無関係に、閉館した映画館の建物が映し出される。そしてエンディングでも、廃墟の空間と化した映画館の内部の画像が挿入される。
それらは、映画の終わりではなく、暗闇で空間と時間を共有して映画を観るという体験の終わりを示唆する。もちろん劇場がすべて無くなるということではない。かつてその体験が有していた効力が失われるということだ。
しかし、オブセッションは終わらない。オブセッションは新たなオブセッションを生み出す。あるいは伝染する。映画をめぐる終わりのイメージは、そんなオブセッションを際立たせることになる。 |