熊坂出監督の長編デビュー作『パーク アンド ラブホテル』の舞台は、くたびれかけたラブホテルだが、その屋上にはなぜか公園があり、子供や老人のアジール(解放区)になっている。
経営者は無愛想な初老の女性・艶子で、彼女とこの奇妙な空間に迷い込んできた三人の女性の交流が、オムニバス風に描き出される。その三人とは、髪を銀色に染めた家出少女、艶子と挨拶を交わすだけの関係だった主婦、毎回違う男と来店し、なにかと艶子に絡んでくる常連客だ。
この映画は、練り込まれた構成と抑制の効いた演出によって、女性の微妙な心理を炙り出していく。ドラマは淡々と展開していくように見えて、そこに人生の分岐点となる変化が起こっていたことが明らかになる。
悩める三人の女性は、傷つくことを恐れ、現実から目を背けている。腰が座った艶子は、年の功で彼女たちの事情を察し、支えになっていく。だが、そんな図式は鮮やかに反転する。
たとえば主婦の月は、毎朝の規則正しいウォーキングを人生の目標にすることで、自分を偽ってきた。毎朝、ラブホテルの前の道を掃除する艶子は、何年もの間、必ず彼女と挨拶を交わしてきた。実は艶子は、三人の女性たちと同じ孤独や絶望をすべて抱え込んでいる。しかも、彼女たち以上に傷つくことを恐れ、それらを押し隠してきた。
そんな艶子は、三人との関係を通して自分の人生を見つめなおし、現実を受け入れていく。そして、借り物だった“パーク アンド ラブホテル”は、揺るぎない彼女の世界になるのだ。 |