注目を集めるオンライン映画祭

セクシャル・イノセンス / The Loss of Sexual Innocence――1998年/アメリカ/カラー/106分/ドルビーデジタル
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(初出:「CD Journal」2000年11月号)

 IFILMALWAYSi.comのように、オンラインで映像作品を楽しめるサイトは確実に増加し、内容もそれぞれに充実してきている。 そして、こうしたサイトが発展するにしたがって気になってくるのが、既成の映画界とオンラインの新興勢力やそれを支えるテクノロジーが、これからどのように結びつき、映像表現やビジネスを変えていくのかということだ。そこで注目してみたいのが、オンライン映画祭である。こうした映画祭はだんだんとスケールが大きくなり、既成の映画界との接点が広がりつつある。

 その好例といえるのが今年(2000年)から始まったYahoo! Internet Life Online Film Festivalだ。この映画祭は、アカデミー賞授賞式の直後、3月の22、23日に2日間に渡ってロスで開催され、オンラインの勢力がハリウッドに乗り込んだかのような印象を与えた。ネットのユーザーは、この映画祭のサイト(※この原稿をアップする時点では、 サイトはアクセス不能になっていた)に並ぶ最優秀短編のノミネート作品を観て、気に入った作品に投票し、トップとなった受賞作品が会場で上映された。

 このサイトでは、映画祭のハイライト・シーンを集めた映像を見ることができる。そこには、ニコラス・ケイジやタランティーノ、リンチなどの姿もあるが、おそらく一番注目を集めたのは、『リービング・ラスベガス』の監督マイク・フィッギスだろう。というのも、彼がデジタル・ビデオを駆使した最新作『Time Code』のワールド・プレミアが、映画祭の目玉になっていたからだ。

 映画祭のサイトにリンクしているフラッシュ・ページTime Codeでは、この作品の解説、予告編、サントラなどをチェックできるが、アイデアがかなり大胆で面白そうな作品である。

 この映画は、四分割された画面で相互にかかわりのある四つのドラマ(すべてワンカット)が並行して描かれ、それが最後にひとつにまとまるという。 このアイデアは、ドグマ95の4人の監督たちが、昨年の大晦日から新年にかけて行ったイベントに通じるところもあるが、こちらはもっと緻密に計算された作品のようだ。

 この映画祭のスポンサーに名前を連ねるindieWIRE(インディーズ映画ファンにはお薦めのサイトである)では、デジタル・ビデオに進出したフィッギスのロング・インタビューを読むことができる。この記事によれば、この新作の撮影にあたってスタッフ、 キャストは、四つのドラマを正確にシンクロさせるために、デジタル・ウォッチを携帯していたという。キャストは、サルマ・ハエック、サフロン・バロウズの他、ホリー・ハンターやカイル・マクラクランなども顔を出している。


―セクシャル・イノセンス―

◆スタッフ◆

監督/脚本/音楽/製作   マイク・フィッギス
Mike Figgis
製作 アニー・スチュワート
Annie Stewart
製作総指揮 パトリック・ワチェスバーガー
Patrick Wachsberger
撮影 ブノワ・ドロム
Benoit Delhomme,A.F.C.
編集 マシュー・ウッド
Matthew Wood

◆キャスト◆

ニック(成人)   ジュリアン・サンズ
Julian Sands
双子(二役) サフロン・バロウズ
Saffron Burrows
ルカ ステファノ・ディオニジ
Stefano Dionisi
スーザン ケリー・マクドナルド
Kerry Macdonald
スーザンの母 ジーナ・マッキー
Gina Mckee
ニックの妻 ジョアンナ・トレル
Johanna Torrel
(配給:K2エンタテインメント)
 
 


  ところで、フィッギス監督といえば、日本ではこの『Time Code』の前々作にあたる98年の「セクシャル・イノセンス」が公開になる。この映画は、『リービング・ラスベガス』の監督の作品という基礎知識だけで観にいくと、まず間違いなく頭を抱えてしまうことだろう。監督自身の体験をもとにした性の遍歴という物語の流れがあるにはあるが、時代が前後しながら複雑に入り組むうえに、 楽園を追放されるアダムとイヴや、不吉であるという理由から遠く引き離されて育てられた双子の姉妹の物語なども挿入され、プロットではなく映像で語る作品になっているのだ。

 しかし、新作『Time Code』の視覚的なアイデアから振り返ってみれば、このアプローチは、フィッギスの新たな方向性の出発点として違和感なく受け入れられる。但し、既成の映画界とデジタルやオンラインの試みに関する情報のあいだにはまだ距離があり、この映画のプレス資料に『Time Code』のタイトルはあるが、その内容にはまったく触れられていない。

 実は筆者はこの『セクシャル・イノセンス』を観て、セックスが極めて個人的な行為であるがゆえに、客観的に、あるいは異なる文化や社会から見たときには滑稽にも映り、その滑稽さが性に対する個人のオブセッションをいっそう際立たせるようなブラック・ユーモアを感じた。その後にindieWIREのインタビューを読んだら、フィッギスが面白いことを語っていた「2、3年前にわたしは自分自身の黄金律を創造する決意をした。 すなわち、すべての映画はSFであり、ブラック・コメディであり、キャラクターこそがプロットである。プロットを強調することは無駄であり、結局は誰もプロットなど気にしてないのだ」。

 話はオンライン映画祭に戻るが、この夏、サンダンス・インスティチュートはそのサイトSundance Instituteで、2001年1月、サンダンス映画祭と時期を同じくして、Sundance Online Film Festivalを開催すると発表した。このオンライン映画祭は、あらゆるジャンルの作品を公募し(9月で締め切られた)、 オンラインで観るために作られた新作や過去の作品のなかから優れた作品を紹介する。これは既成の映画界からオンラインへのアプローチということにもなり、どんな作品がどんなかたちで公開されるのか、非常に興味深い。


※サンダンス・オンライン映画祭については、「CD Journal」2001年3月号に書きました。
※今年の第2回Yahoo!オンライン映画祭は、諸所の事情により、オンラインのコンペを除いて、急遽中止ということになりました。そのことについては、「CD Journal」2001年4月号に書きました。


(upload:2001/03/24)

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