10代の妊娠はしばしば、貧困を生み出す悪循環の出発点とみなされる。アメリカではこの10数年の間に、10代の妊娠率や出産率が低下してきた。しかしそれでも、先進諸国のなかでそれらの比率が最も高い国であることに変わりはなく、また都市部では、貧困にあえぐ子供がむしろ増加しているという統計もある。
本書の主人公は、16歳の少女レイナと彼女が通う高校の教師マーガレット。麻薬中毒の母親から目の敵にされるレイナは、麻薬中毒の恋人と町を転々とし、食べるために盗みを繰り返す。だが恋人はあっけなく死んでしまい、彼女は妊娠に気づく。マーガレットは、問題児たちに振り回され、保護者の協力も得られず、悪戦苦闘している。そんなふたりを結びつけていくのは、話せば必ず反抗するレイナが、胸のうちを吐露し、間接的に語りかけてくる作文だ。
著者のグラントは、彼女たちの視点を巧みに交錯させ、麻薬、売春、妊娠、幼児虐待、公立高校の教育環境など、落ちこぼれていく若者たちが直面する現実を、リアルに描き出していく。そして、苛酷な現実のなかでも特に重要なテーマとなっているのが、10代の妊娠の問題である。
レイナの作文からは、母親が10代で妊娠し、高校を中退したこと、祖母の年齢がまだ50歳で、母親の人生を歪める原因となった再婚を悔やんでいることなどが明らかとなる。レイナは、いままさに母親や祖母と同じ運命をたどろうとしているのだ。一方、マーガレットには、いくら産みたくても産めない身体であることがわかり、離婚を余儀なくされた辛い過去がある。それなのに教室では、「十六人いる生徒のなかで、五人がすでに子持ち」なのだ。
作文でしか心の痛みを表現できないレイナと、叫び出したい思いを皮肉なユーモアで紛らすマーガレット。衝突し、すれ違ってきたふたりが、新しい生命に共通の希望を見出すとき、10代の妊娠に始まる悪循環が断ち切られることになるのだ。
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