ABCDJ とびきりの友情について語ろう / ボブ・グリーン


駒沢敏器訳/NHK出版/2007年
line
(初出:「東京新聞」2007年5月20日)

記憶や物語のなかに生き続けるアメリカ

 アメリカを代表するコラムニスト、ボブ・グリーンのベストセラーのひとつに、彼が自分の日記をもとに等身大の青春を描いた『十七歳 1964春/秋』がある。そこに登場する僕と4人の親友たちは、名前の頭文字をとって自分たちを“ABCDJ”と呼んでいた。それから40年、彼らが57歳になったある日、Jのジャック・ロスが末期癌を宣告される。彼はボブ・グリーンにとって、幼稚園の時から友情を育んできた無二の親友だった。

 本書には、親友を失う痛みと生涯に渡って続く友情が描き出される。そんな物語のなかで重要な位置を占めているのが、アメリカの中西部にある彼らの故郷だ。4人の親友たちは、ジャックと過ごすために戻ってくる。ジャックは、残された時間のなかで思い出の場所を訪ね歩き、自分の人生と向き合おうとする。そのほとんどの場所はもはや昔のままではない。しかし、ボブ・グリーンには、彼が見ているものが見える。

 5人の溜まり場で、そこに行けば必ず誰かと会えた食堂。ディズニーランドが登場する以前に、地元によって運営され、町の生活の一部になっていた遊園地。ビートルズのアルバムを初めて手にしたレコード店。まだセキュリティなどなく、屋上に出入りすることが許された空港。ジャックの父親がそこで働き、オフィス街のなかで前世紀の遺物のように異彩を放っていた市場。中西部の人間の目には、ロンドンやパリの美術館のようにすら見えた老舗デパート。そして、年に一度、夏の終わりに州を挙げて盛大に催されるフェア。

 それらは決して特殊な場所ではない。ボブ・グリーンは、無名の人々の人生に目を向け、日常的な次元からアメリカをとらえてきた。本書には、そんな彼のルーツと現在を見ることができる。ジャックという無名の親友の物語からは、ふたつのアメリカが浮かび上がってくる。メディアやグローバリゼーションによって変貌を遂げたアメリカと、記憶や物語のなかに生き続けるかつてのアメリカだ。


◆著者略歴◆
ボブ・グリーン
1947年アメリカ、オハイオ州ベクスレイ生まれ。アメリカを代表するコラムニストとして、サン・タイムズ紙、シカゴ・トリビューン紙などでコラムを執筆する他、ライフ誌。エスクァイア誌でリード・コラムニストとして活躍。ABCのニュース番組「ナイトライン」の解説者を努め、ニューヨーク・タイムズ紙の論説記事にもたびたび寄稿している。

 

 


 

(upload:2007/11/11)
 
 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp