ジュゼッペ・トルナトーレにとって『マレーナ』以来、6年ぶりとなる新作は、オープニングから不穏な空気が漂う。仮面を付けた全裸の女たちが、姿も見えない人物に品定めされるのだ。
「あのシーンはとても気に入っています。すごく不安で、謎めいていて、観客を映画に引き込むのではないかと思います。この映画のきっかけは、20年ほど前に新聞で読んだ記事でした。イタリア南部に住む女性が、注文を受けて妊娠し、子供を売った罪で、夫とともに逮捕されたというのです。それが心に残り、調べてみると、かなり大きな裏市場があることがわかってきました。しかし、社会的な要素はあくまで背景であり、私が最も関心を持っていたのは、主人公の女性像です」
北イタリアの港町に現れた謎の女イレーナ。彼女は、裕福なアダケル家の生活を探り、メイドの座を奪い、夫婦の娘テアと親密な関係を築こうとする。そして事件が起こる。
社会的な要素、重い過去を背負った主人公の激しい葛藤。『ニュー・シネマ・パラダイス』のファンは、トルナトーレの変化に驚くかもしれない。しかし、この新作には、彼の『記憶の扉』に通じる表現がある。
「かなり共通する要素があります。『記憶の扉』では、過去をつかまえようとしても、うまくできない。この映画では、過去から逃れたいのに、どこまでも付きまとう。誰かに触れられたり、音楽が大音量で響くと、過去が甦る。どちらもそれをフラッシュバックで表現している。ただ、スタイルとしてはこの映画の方が進んでいると思います。サブリミナル・フラッシュというほとんど目にも止まらないくらいのフラッシュを使っています」
イレーナに扮するクセニア・ラパポルトは、女や母親としての苦悩を見事に表現しているが、どのように彼女を見出したのだろうか。
「とても難しい役で、しかも、あまり知られていない女優を使いたかったので、苦労しました。イタリアをはじめ、ブルガリア、ハンガリー、スロヴァキア、ウクライナなどでオーディションしても見つからなくて。結局、モスクワで規模を大きくしたオーディションをやったときに、目に止まったのが彼女でした。見ただけでこの人は面白いなと思いました。彼女の名前も決め手のひとつになりました。この映画の題名“La Sconosciuta”は、「よそ者」という意味なんですが、クセニアというのは、ギリシア語でクセノスという「よそ者」を意味する言葉になる。その名前が気になったということもありました」
最後に、映画のなかでイレーナが歌う子守唄は、彼女の故国であるウクライナで実際に歌われているものなのだろうか。
「自分たちで作ったんです。まず私が歌詞を書いて、クセニアがロシア語に翻訳し、彼女と親しいウクライナ人の詩人にウクライナ語に翻訳してもらい、それにエンニオ・モリコーネが曲をつけたんです。だから、ウクライナに行っても耳にすることはできません。ウクライナの伝統的な要素は入れていますが」
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