青春映画には、挫折があり、それを乗り越えていくドラマがある。田中誠監督の『うた魂♪』が描くのは、高校生合唱団の青春だ。それならば挫折は、うまく歌えないとか、コンクールで負けることだと思いたくなるが、その予想は裏切られる。
合唱部のソプラノパートリーダー・荻野かすみは、自分の歌声とルックスに異常なまでの自信を持っている。ところが、彼女が好意を寄せる生徒会長に、歌っている表情が「産卵中のシャケのようにユーモラス」と言われてから、すべてが悪い方に転がりだし、プライドがずたずたになる。
彼女の挫折はもちろん、ひたむきな練習で克服されるようなものではない。だからドラマも、ストレートな演出ではなく、キャラクターやアクションにかなりマンガ的な感覚が取り入れられている。
よく言えば、ポップでコミカル。だが、本来なら青春映画に不可欠であるはずのリアルな痛みとか切迫感は感じられない。 |