ザ・タウン
The Town  Za taun
(2010) on IMDb


2010年/アメリカ/カラー/125分/シネマスコープ/ドルビーSRD・DTS・SDDS
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ 2011年2月2日更新)

 

 

土地そのものとの関係が希薄な幻想の共同体
確かな感触を持つ土を媒介にした絆

 

 ベン・アフレックの監督第2作、チャック・ホーガンのミステリー『強盗こそ、われらが宿命<さだめ>』を映画化した『ザ・タウン』でまず興味をそそられるのは、物語の舞台となるマサチューセッツ州チャールズタウンだ。

 ボストンの北東部に位置し、住民たちが“タウン”と呼ぶこの地域は、他のどの地域よりも多くの銀行強盗、現金輸送車強盗を生み出してきた。もちろんそれには理由がある(ことになっている)。かつてチャールズタウンには凶悪犯罪者用の最重要警備刑務所が存在し、その刑務所が移転したあとも、犯罪者の共同体が残った。

 アフレックがそんな背景に関心を持っていたことは、プレスに収められた彼のコメントから察せられる。

家族の誰かが刑務所に入ると、家族はそこへ移転した。出所しても、また舞い戻り、刑務所を中心にコミュニティーができていった。そんななかで、銀行強盗が父から息子へ受け継がれていったということが原作の中では仮説として取り上げられていて、僕たちもそれを映画に盛り込んだんだ

 この映画では、そんな共同体が物語や人物と複雑に絡み合っている。タウンで生まれ育った主人公ダグ。彼の父親は終身刑、母親は彼が6歳のときに家出し、彼はプロホッケー選手になる夢に破れ、銀行強盗グループのリーダーになった。だが、グループが襲った銀行の支店長クレアとの出会いが、彼の人生を変えていく。

 物語の焦点になるのは、ダグが共同体を抜け出せるかどうかだけではない。この映画に描かれるのは、かなりいびつな共同体だ。一般的には土地と人の繋がりから共同体が生まれる。しかし、この映画の登場人物たちは、必ずしも直接的に土地と繋がりを持っているわけではない。しかも、もともと共同体の中心であったはずの刑務所はもはや存在していない。それでもお互いに助け合う共同体は維持されているのか。そして、共同体の中心はどこにあるのか。

 この映画では、内部と外部の双方から共同体が崩壊していく。共同体の中心になっているのは、強盗グループの元締めである花屋のファーギーだ。ダグは、両親の運命にファーギーが関わっていることを知らない。そして、ファーギーの正体が見えてくるに従って、共同体が一世代前の時代にすでに形骸化していたことが明らかになる。突き詰めれば共同体はファーギーが利用するためだけに存在しているのだ。

 一方、ダグとクレアの関係は、共同体が外部からも侵食されつつあることを示唆する。ダグは、銀行襲撃の際に人質にとったクレアがタウンの住人であったことを後で気づき、彼女が何を見て、何を知っているのかを確認するために、偶然を装って接近する。

 銀行の支店長という高い地位にあって、しかも一人暮らしの女性であるクレアが、なぜタウンの住人なのか。それは、タウンのなかでジェントリフィケーションが進んでいるからだ。もともと土地そのものとの関係が希薄な共同体であるうえに、土地そのものも大きく変化しつつあるということだ。

 プレスには、製作のベイジル・イヴァニクのこんなコメントがある。「チャールズタウンは過渡期にある。ここ数年で、かなり高級住宅地も増えたんだよ。ある街角に立ち、片側を見ると、そこには瀟洒なタウンハウスや美しい街路樹が見える。まるで本から飛び出してきたような光景だ。そして同じ場所から反対側を見ると、ほんの数ブロック先には“プロジェクト”と呼ばれる低所得者用の公営団地があるんだ


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ベン・アフレック
Ben Affleck
原作 チャック・ホーガン
Chuck Horgan
脚本 ピーター・クレイグ、アーロン・ストッカード
Peter Craig, Aaron Stockard
撮影 ロバート・エルスウィット
Robert Elswit
編集 ディラン・ティチェナー
Dylan Tichenor
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ、デイヴィッド・バックリー
Harry Gregson-Williams, David Buckley
 
◆キャスト◆
 
ダグ   ベン・アフレック
Ben Affleck
クレア レベッカ・ホール
Emma Thompson
FBI特別捜査官フローリー ジョン・ハム
John Hamm
ジェム ジェレミー・レナー
Jeremy Renner
クリスタ ブレイク・ライブリー
Blake Lively
ティノ タイタス・ウェリバー
Titus Welliver
ファーギー ピート・ポスルスウェイト
Pete Postlethwaite
ビッグ・マック クリス・クーパー
Chris Cooper
-
(配給:ワーナー・ブラザース映画)
 

 監督のアフレックもそれを意識している。同じくプレスに、美術監督のシャロン・シーモアのこんなコメントがある。「ベンと私は、チャールズタウンというのは分断されたコミュニティーだという雰囲気を観客に感じとってもらえるようにする必要があると考えたの。メインストリートに沿った地区には美しい家が並んでいるけれど、別の地区には、何代にもわたってそこに住み続けている人々の3階建ての古い家がある。この映画ではそれを、チャールズタウンの労働者階級出身のダグと、最近きれいなアパートに引っ越してきた銀行の支店長クレアの関係に反映させて描いているの

 この物語が印象に残るのは、土地や共同体が強く意識され、内部と外部からの崩壊が複雑に絡み合って展開していくからだ。

 そしてもうひとつ注目したいのが、クレアの隠れ家的な場所だ。彼女はコンクリートの世界から離れ、そこで土いじりをしている。ダグは最後にその土のなかに大切なものを埋め、クレアと繋がる。監督のアフレックは、幻想の共同体と確かな感触を持つ土を媒介とした絆を対置しているように見える。

※映画とは直接関係があるわけではないが、ベン・アフレックが2010年にイースタン・コンゴ・イニシアティブ(ECI)を設立し、コンゴ民主共和国の東部、いまだに混乱がつづき、女性たちが日常的に暴力にさらされているといわれるこの地域で、人々が地元に根ざした復興の取り組みができるように尽力していることにも注目しておきたい。

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(upload:2011/11/25)
 
 
《関連リンク》
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