最近、大林宣彦監督によって映画化もされた宮部みゆきのベストセラー『理由』は、高級マンションの競売をめぐって引き起こされた不可解な殺人事件を通して、現代の家族のあり方を掘り下げる作品だった。アンドレ・デビュースV世が99年に発表した『砂と霧の家』も、ミステリではないが、やはり一軒の家の競売から起こる悲劇を通して、家族を見つめなおしていく作品である。
競売によって家を手にした人間とそれを取り戻そうとする人間の対立を描くこの物語には、移民という複雑な立場も絡んでくる。家を購入するのは、政変によって祖国イランを追われ、家族とともにアメリカに亡命した元空軍大佐だ。ところが後に、その家は、役所の手違いで競売にかけられたことが判明する。そこで対立が生まれるわけだ、主人公たちは、それぞれに複雑な事情を抱えている。
10代の時に母親と旧ソ連を離れ、苦労してカナダに移住した経験を持つヴァディム・パールマン監督は、原作をかなり忠実に映画化している。このドラマには、ふたつの注目すべき点がある。
ひとつは、競売以前から家族の間にある溝だ。空軍大佐というベラーニの過去は、アメリカでは何の意味もない。だから彼は、肉体労働者に身をやつしている。しかし、妻や息子、嫁いだばかりの娘は、そのことを知らない。彼は、仕事が終わるとホテルのトイレで、汚れた作業着からスーツに着替えて帰宅する。彼はあくまで元大佐であり、上流階級出身の妻に惨めな姿を見せることはできない。
一方、海辺の一軒家に暮らすキャシーもまた、自分を偽っている。結婚生活はすでに破綻し、夫が出ていってしまったにもかかわらず、離れて暮らす母親や兄にはそれを打ち明けられない。なぜなら彼女には、ドラッグとアルコールの中毒になった過去があり、これ以上家族を失望させるわけにはいかないからだ。
そしてもうひとつは、この主人公たちの家に対する執着である。彼らが抱える事情とこの執着は密接に結びついている。このままでは終われないベラーニは、家が安価で手に入る競売に目をつける。その家に手を加え、市場価格で転売すれば、大金が得られる。それは彼のアメリカン・ドリームであり、唯一の希望となる。しかも彼が実際に手にした家は、故郷で持っていた別荘を思い出させるものでもあった。だから、競売が役所の手違いであることが判明しても、家族にはそれを隠し、所有権を主張する。 |