グラフの世界はそんな背景から生み出されているが、『ジョイフル♪ノイズ』にはこれまでとは異なるドラマがある。前二作は青春映画だったが、この新作で中心に据えられているのは母親(あるいは母親的な存在)だ。グラフは、聖歌隊のリーダーだった自分の母親をモデルにこの脚本を書いた。
そこで注目したいのが、ユダヤ系であるグラフが、なぜユダヤ教の聖歌隊ではなく、ゴスペルの聖歌隊の物語を選択したのかということだ。そのヒントは、この映画で音楽のアレンジとプロデュースを手がけているマーヴィン・ウォーレンが、1996年に音楽のプロデュースと総指揮を務めた映画『天使の贈りもの』(ホイットニー・ヒューストン、デンゼル・ワシントン主演)にある。
実はグラフは、(クレジットはされていないが)この映画の脚本に参加していて、そのときにウォーレンに出会い、彼が切り拓くゴスペルの世界に大きな刺激を受け、いつか自分でゴスペルの映画を作りたいと思うようになった。つまり、自分の母親の記憶とゴスペルへの関心が融合して生まれたのが、この新作なのだ。
そしてもうひとつ、ゴスペル映画はグラフの出身地であるニューヨークでも作れるのに、舞台が南部に設定され、実際に南部で撮影されていることにも注目しておきたい。
南部は、他の地域に比べて伝統的に人と土地の繋がりが深い。この『ジョイフル♪ノイズ』では、母性を象徴するようなクイーン・ラティファとドリー・パートンの身体と音楽とそんな南部の土地が意識して結びつけられているように筆者には思えるのだ。 |