アンドリュー・ニコル監督の『ロード・オブ・ウォー』には、ある武器商人の波乱に満ちた半生が、痛烈な風刺を込めて描き出される。ウクライナからの移民であるユーリー・オルロフは、ギャング同士の銃撃戦に遭遇した瞬間、武器の売買こそが天職だと確信し、武器商人として頭角を現していく。その結果、懐には大金が転がり込んでくるが、もちろんそれは楽な仕事ではない。古株の武器商人を蹴落とさなければのし上がれないし、インターポールの刑事には追いまわされるし、冷酷な現実に耐えられなくなったパートナーの弟はコカインに溺れるし、夫は輸送会社の経営者だと信じている妻にいつ正体がばれるか知れたものではない。
そして、そんな彼の半生を独特の視点から際立たせていく枠組みとなるのが、映画のオープニングだ。そこに浮かび上がるのは、戦闘によって荒廃した町の光景だ。地面は銃弾や薬莢で埋め尽くされ、背後の瓦礫からは煙が立ちのぼっている。そんな光景に相応しい人物は、銃を構えた兵士か、家を失った住人か、ジャーナリストくらいのものだろう。だがそこに立っているのは、いかにも値の張りそうなスーツを着こみ、アタッシュケースを提げたユーリーだ。彼はカメラに向かってこう語る。「世界には5億5千万の銃がある。ざっと12人に1丁の計算だ。問題は、残りの11丁を誰が提供するかだ」。彼は、完全なビジネスマンであり、銃ではなく、携帯電話か何かについて語っているように見える。いや、見えるのではなく、彼にとっては、銃と携帯電話には何の違いもないのだ。
このオープニングは、天職に目覚めたユーリーが、最終的に到達する場所を意味する。つまりこの映画には、彼が様々な困難を乗り越え、善悪の基準や家族の絆にも背を向け、改心することもなく、いかに完全なビジネスマンになっていくのかが描かれる。しかし彼は、自分の意志だけでそうなるわけではない。世界の情勢の変化も影響を及ぼしている。
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