ロード・オブ・ウォー
Load of War


2005年/アメリカ/カラー/122分/シネスコ/ドルビーSR・SRD・DTS・SDDS
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(初出:「cine-pause.com」2006年1月更新号)

効率的に死を生産する工場

 アンドリュー・ニコル監督の『ロード・オブ・ウォー』には、ある武器商人の波乱に満ちた半生が、痛烈な風刺を込めて描き出される。ウクライナからの移民であるユーリー・オルロフは、ギャング同士の銃撃戦に遭遇した瞬間、武器の売買こそが天職だと確信し、武器商人として頭角を現していく。その結果、懐には大金が転がり込んでくるが、もちろんそれは楽な仕事ではない。古株の武器商人を蹴落とさなければのし上がれないし、インターポールの刑事には追いまわされるし、冷酷な現実に耐えられなくなったパートナーの弟はコカインに溺れるし、夫は輸送会社の経営者だと信じている妻にいつ正体がばれるか知れたものではない。

 そして、そんな彼の半生を独特の視点から際立たせていく枠組みとなるのが、映画のオープニングだ。そこに浮かび上がるのは、戦闘によって荒廃した町の光景だ。地面は銃弾や薬莢で埋め尽くされ、背後の瓦礫からは煙が立ちのぼっている。そんな光景に相応しい人物は、銃を構えた兵士か、家を失った住人か、ジャーナリストくらいのものだろう。だがそこに立っているのは、いかにも値の張りそうなスーツを着こみ、アタッシュケースを提げたユーリーだ。彼はカメラに向かってこう語る。「世界には5億5千万の銃がある。ざっと12人に1丁の計算だ。問題は、残りの11丁を誰が提供するかだ」。彼は、完全なビジネスマンであり、銃ではなく、携帯電話か何かについて語っているように見える。いや、見えるのではなく、彼にとっては、銃と携帯電話には何の違いもないのだ。

 このオープニングは、天職に目覚めたユーリーが、最終的に到達する場所を意味する。つまりこの映画には、彼が様々な困難を乗り越え、善悪の基準や家族の絆にも背を向け、改心することもなく、いかに完全なビジネスマンになっていくのかが描かれる。しかし彼は、自分の意志だけでそうなるわけではない。世界の情勢の変化も影響を及ぼしている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   アンドリュー・ニコル
Andrew Niccol
撮影監督 アミール・モクリ
Amir M. Mokri
編集 ザック・ステーンバーグ
Zach Staenberg
音楽 アントニオ・ピント
Antonio Pinto
 
◆キャスト◆
 
ユーリー・オルロフ   ニコラス・ケイジ
Nicolas Cage
ジャック・バレンタイン イーサン・ホーク
Ethan Hawke
ヴィタリー ジャレッド・レト
Jared Leto
エヴァ ブリジット・モイナハン
Bridget Moynahan
シメオン イアン・ホルム
Ian Holm
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(配給:ギャガ・コミュニケーションズ)


 たとえば、ユーリーと古株の武器商人シメオンのコントラストには、時代の変化が巧みに反映されている。シメオンには、それなりのモラルやプライドがあり、悪い奴らには武器を売らない。ユーリーは、金さえ払えば誰にでも売るし、コカインとの物々交換すら受け入れる。だからシメオンは、ユーリーを蔑んでいる。ところが、ソビエト連邦の崩壊によって彼らの力関係は劇的に変化する。冷戦の終焉によって、世界を動かす力は、政治から経済に完全に移行する。グローバリゼーションのなかでは、もはやモラルやプライドは意味を失い、手段を選ばない人間が勝ち組となるのだ。

 さらに、映画のオープニングには、もうひとつの意味がある。オープニングクレジットの映像では、一発の銃弾の製造過程が描き出される。工場の製造ラインを通り抜けた銃弾は、紛争地帯へと出荷され、急襲用ライフルに装填され、最後にアフリカ人の少年の頭を撃ち抜く。最後まで人間的な感情が排除され、システマティックに描かれる銃弾の軌跡は、強烈なインパクトを生み出す。それが何を意味するのかといえば、銃弾が工場から出荷されるのではなく、この映像全体が効率的に死を生産する工場になっているということだ。ユーリーの頭のなかでは、死さえもが製造ラインに組み込まれているのである。

 



(upload:2007/12/04)
 
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