ニュー・イヤーズ・デイ

1999年/イギリス/カラー/106分/シネスコ/ドルビーSR
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(初出:「ニュー・イヤーズ・デイ」劇場用パンフレット)
孤立感の共有を真の友情に変える12の約束

 雪崩に襲われ、好意を寄せる女の子や仲間たち、教師を一瞬のうちに失い、九死に一生を得たジェイクとスティーヴン。17歳の親友同士である彼らのショックや苦痛には計り知れないものがある。彼らの心に癒し難い深い悲しみがあることはいうまでもない。しかし同時に、自分たちだけが生き残ってしまったことに対する罪悪感のような感情もあれば、自分たちが生きていることが単なる偶然に過ぎないような虚しさもある。死とか運命といったものに一方的に支配されることに抵抗したいという衝動にも駆られる。だからこそ、ジェイクは断崖から身を投げようとする。

 「ニュー・イヤーズ・デイ」の魅力は、きわめて複雑で不安定なふたりの若者の心理を、予定調和ではない、意外性に満ちたストーリーで描きだすところにある。その発端となるのは、スティーヴンが提案する"12の約束"だ。その約束はどこか謎めいている。学校を燃やすとか、大きな動物を殺す、警官を殴るといった物騒な課題が並ぶかと思えば、突然、地球に緑を取り戻すというような妙に建設的な課題も飛び出してくる。その真意は終盤になって明らかになるが、それ以前にこの12の約束は、彼らの人生に思わぬ影響を及ぼしていくことになる。

 この映画は、いままさにフランスに向けて旅立とうとするジェイクとスティーヴンが、電話で連絡を取り合っている場面から始まる。彼らがやっていることは連絡というよりは、SFまがいの交信であり、彼らは異世界のなかにいるつもりになっている。しかし悲劇的な事故の後、皮肉にもそんな現実との距離感は、ジョークではすまないものとなる。彼らは、これまでと変わらない世界を、異世界の住人であるかのような視座で見ている。そして、ドラッグによる幻覚を視覚化したシュールな映像や植林の場面に浮かび上がる奇妙な風景などが、そんな孤立感を強調していく。

 しかし一方で、12の約束は、ジェイクとスティーヴンに対照的な作用を及ぼしていく。ジェイクにとっては、彼が学校に放火したり、ドラッグに手を出したりすることが、そのまま家族の生活にはね返る。鬱病に苦しむ母親の病状が悪化し、病院送りになるか、快方に向かうか、幼い弟や妹が保護者を失って、施設送りになるかどうかは、彼の肩にかかっている。そこでジェイクのなかでは、現実の生活の重みと12の約束の重みが次第に拮抗し、前者がまさるようになる。あるいは12の約束がきっかけとなって、現実の重みに目覚めていくということもできる。その結果、自分の家族やルアンダを失った家族と現実を分かち合うことができるようになる。


◆スタッフ◆

監督
スリ・クリシュナーマ
Suri Krishnamma
製作 スティーヴン・クリアリー/ サイモン・チャニング・ウィリアムス
Stephen Cleary/ Simon Channing-Williams
製作総指揮 デイヴィッド・フォレスト/ ボー・ロジャース
David Forrest/ Beau Rogers
脚本/製作補 ラルフ・ブラウン
Ralph Brown
撮影 ジョン・ド・ボーマン
John de Borman
編集 アダム・ロス
Adam Ross

◆キャスト◆

ジェイク
アンドリュー・リー・ポッツ
Andrew Lee-Potts
スティーヴン ボビー・バリー
Bobby Barry
ヴェロニカ マリアンヌ・ジャン・バプティスト
Marianne Jean-Baptiste
シェリー アナスターシャ・ヒル
Anastasia Hille
ジェラルディン ジャクリーン・ビセット
Jacqueline Bisset
 
(配給:アーティストフィルム/東京テアトル)
 
 


 ところが、スティーヴンには同じ約束がまったく逆の作用を及ぼす。彼が何をやらかしても、裕福な両親の生活が簡単に揺らぐわけではない。しかもこの両親は、貧しい母子家庭の友だちが、自分の息子に悪い影響を与えていると勝手に決めつけ、息子と正面から向き合おうとしない。それゆえスティーヴンにとっては、ジェイクとは対照的に、12の約束をクリアすればするほど、現実感がさらに希薄になり、孤立感だけが大きくなっていく。だから、より危険な方向へと行動をエスカレートさせていくのだ。

 そんなスティーヴンは、12の約束の真意を隠しつづけているが、その気持ちはよくわかる気がする。筆者は、ジェイクとスティーヴンは必ずしも本当の親友同士ではなかったと思う。彼らの家庭は対照的ではあるが、ふたりはそれぞれの家庭のなかで孤立感を抱え、それが彼らを結びつける力になっていたように見える。そこで当然のことがら、12の約束が対照的な作用を及ぼすとき、彼らの間には軋轢が生まれる。しかしそれは、彼らが本当の親友になるためには絶対に越えなければならない壁であり、彼らは結果的にこの約束を通して、単に孤立感を共有する関係から、親友同士へと生まれ変わるのだ。

 12の約束はまさに意外なドラマを紡ぎ出す。そこには、確かに死んだ仲間たちに対するスティーヴンの想いが込められている。しかし、ビデオに収められた仲間たちの言葉は、必ずしもすべてが真剣なものではない。グループ旅行の浮かれた雰囲気のなかで飛び出した言葉であり、大法螺だって含まれている。それを実行したからといって、仲間が絶対に喜ぶものばかりではない。また、もしスティーヴンがこの約束の真意を最初からジェイクに告白していたとしたら、約束の実行がこのような結果を生みだすことはなかったに違いない。

 そんな予定調和を排した、意外な展開のなかで、ふたりが生涯で最も豊かな1年間を過ごすとき、仲間たちの言葉は生き、彼らへの追悼ともなる。そしてふたりはラストで、死を超克することによって、自分たちが本当の親友であることを証明するのである。


(upload:2001/10/15)
 
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