コラムニストのジョン・グローガンが実体験を綴ったベストセラー・エッセイを映画化したデヴィッド・フランケル監督の『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』では、新婚のカップルが家庭を築き上げていく姿が、犬との関係を通して描き出される。
ともにジャーナリストとして働くジョンとジェニーは、子育ての予行演習のつもりで子犬を飼うことにする。ところがそのマーリーは、他の犬や飼い主に飛びかかり、家具を噛みちぎり、何でも食べようとするとんでもなくおバカな犬だった。
個人的なことをいえば、筆者は大の猫好きで、犬にはあまり興味がないが、だからこそ逆にこの映画を楽しめた。これは犬の映画であって、犬の映画ではない。主人公のジョンもドラマのなかで、マーリーのことを「犬ではない」と言っている。犬のしつけの基本は、まずなによりも主従関係を明確にすることだ。犬は飼い主に従わなければならない。だが、マーリーはまったく従わない。
マーリーに手を焼いたジョンとジェニーが犬の訓練学校を訪れる場面では、その事実が強調されている。他の飼い主と犬の間にはしっかりとした主従関係がある。ふたりは、調教師の指導に従ってしつけをほどこそうとするが、マーリーはどちらにも従わない。そこで調教師本人が手本を示そうとするが、マーリーは彼女に飛びかかり、引きずりまわし、結局、追い出されることになる。
この映画では、マーリーが主従関係を通して一家に貢献することはまったくないが、犬ではないことこそが意味を持つ。ジョンとジェニーは、仕事や出産、子育てなどをめぐって、何度となく壁にぶつかる。だが彼らは、自分たちの思い通りにはならないことでも、そこに大きな喜びがあるのを無意識のうちにマーリーから学んでいるのだ。
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