第24章 現代の郊外では何が起こっているのか
――郊外のティーンをめぐる80年代の事件簿


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(初出:東京書籍刊『サバービアの憂鬱』、1993年、若干の加筆)
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■■母親を惨殺した少年とサタニズム■■

 最初に取り上げるのは、「Spin」という音楽雑誌に載った記事を読んで知った事件である。この事件は、バーゲンフィールドと同じニュージャージー州のスパルタで起こり、その後、サタニズムを掲げるメタル系ロックのティーンへの影響が論議をよぶことになった。ゲインズも『Teenage Wasteland』のなかで、ほんのわずかだがこの事件に触れている。

 「Spin」の記事は、カトリック系の学校に通うトミー・サリヴァンが、ある日、友人たちに彼の計画を語るところから始まる。

 「きのうの夜、夢のなかにサタンがあらわれたんだ。顔はぼくだった。手にナイフを握っていて、こう言ったんだ「仲間にサタニズムの教えを説き、お前の家族を皆殺しにせよ」。ぼくは、それを実行する」

 この記事によれば、サリヴァンが暮らす町では、それまでにもティーンの奇怪な行動が報告されていたということだ。たとえば、地元の警察が、20人のティーンのグループが悪魔の儀式をやっているのを発見したり、どこかで鶏が生贄にされていたり、魔術に熱中する生徒が自殺するということがあったという。

 そして、問題の事件が起こった夜については、まず居間で遅くまで『13日の金曜日』のビデオを見ていたサリヴァンが、厳格な母親にとがめられたことが確認されている。その後、今度はサリヴァンの弟が、廊下をふらついている兄を見かける。弟はそのまま部屋に戻ったが、兄の手に血がついていたような気がして、兄の部屋に行く。ところが弟は、ドアに貼ってある『エルム街の悪夢』のフレディのポスターと、それにそえられた“入れば殺す”というメッセージに恐れをなし、自分の部屋に逃げかえってしまった。

 真夜中に火災報知機の音で目覚めた父親と弟は、母親が血まみれの姿で死亡しているのを発見する。顔はナイフの傷だらけで、眼球をえぐろうとした跡があり、皮膚も一部がはがされ、ベトナムを体験した刑事でさえ目をそむける凄惨な光景だったという。サリヴァンは翌日、隣の家の裏手で、腕と喉を切って自殺しているのが発見された。彼は、父親と弟を殺し、20年後に自殺するというメッセージを記した手紙を残していた。

 
《データ》
 
Teenage Wasteland: Suburbia’s Dead
End Kids by Donna Gaines●
(Pantheon, 1990, 1991)
 
The Book of Shadows by Ed Kiersh●
Spin, August 1988
 
Darkness of the Heart of Town
by Peter Wilkinson●
Rolling Stone, October 5th 1989
 
『アメリカの極右――白人右派
による新しい人種差別運動』
ジェームズ・リッジウェイ●
山本裕之訳(新宿書房、1993年)
 
Leader of the Pack by Randall Sullivan●
Rolling Stone, September 4th 1986


 サリヴァンはヘヴィメタのコレクターで、ファミコンに熱中していたということだが、論議の的になったのは、ヘヴィメタが掲げるサタニズムだった。この事件に対する周囲の対応は、ひとつ間違えればブラック・コメディのようだが、逆にいえば問題の深刻さを物語っているということになるのだろう。警察は事件の跡、“サタン班”を組織し、さらに“デビル・ハンター”を自称する識者に協力を求める。この記事には、デビル・ハンターやサタン・ハンターが登場して、サタニズムにまつわるティーンの悲劇をあげ、スレイヤーやトゥイステッド・シスターズといったデス・メタルが、ティーンを暴力に駆り立てていることを力説している。

 この記事には、サリヴァンの事件の数カ月後に、今度はミネソタ州ロチェスターで、ティーンが自分の両親とふたりの子供を斧で惨殺するという事件が起きたことが付け加えられている。その16歳の若者は、優等生といわれたカトリック系の学校の生徒で、スイサイダル・テンデンシーズの大ファンだったということから、再びサタンが論議の的となったという。

 こうしてみると80年代の郊外においては、家庭の亀裂の一面が、キリスト教とヘヴィメタが掲げるサタニズムとの対立に反映されているように思えてくる。

 たとえば、先ほどの記事でデビル・ハンターが名前をあげたデス・メタルのバンド、スレイヤーは、82年にカリフォルニア州のノース・ロングビーチにある郊外住宅のガレージで産声をあげた。そこはバンドのメンバーのひとり、トム・アラヤの両親の家のガレージだった。彼らは強烈なサウンドとスピードで郊外の世界を切り裂くようにして、ガレージ・バンドからデス・メタルへと成長していったわけだ。ちなみに、スレイヤーは、スティーヴン・キングの小説やホラー映画、その他80年代を象徴するイメージをヒントに、独自の世界をつくりあげていったという。

 あるいは、マイアミは、デス、ディーサイド、マルヴォレント・クリエーションといったバンドを生みだし、80年代のデス・メタルのひとつの拠点となったが、こうしたバンドも宗教色が強いマイアミの郊外から誕生している。そうした背景は、たとえば、デスのアルバム『スピリチュアル・ヒーリング』のジャケットによくあらわれている。そこには、スーツのベストからドル札をちらつかせ、聖書によって中流の人々を支配するキリスト教伝道師が、イラストで描かれているのである。

 それから、先ほど触れたミネソタ州ロチェスターの事件で、両親を殺したティーンは、スイサイダル・テンデンシーズの大ファンだったということだが、彼らのアルバム『ライツ・カメラ・レヴォリューション』には、テレビ伝道師のスキャンダルを引用して、金まみれの宗教を痛烈に風刺する<センド・ミー・ユア・マネー>という曲が収められている。このティーンは、彼らのファンで、しかもカトリック系の学校の優等生だった。彼の頭のなかで、学校の世界とスイサイダル・テンデンシーズのメッセージとは、いったいどのように結びついていたのだろうか。

 ところで、レーガンが大統領になるにあたって、アメリカのキリスト教右翼の力が大きかったことは後に触れるが、こうしてみてくるとヘヴィメタが掲げるサタニズムを巨大な怪物にしているのは、要するにキリスト教だということになる(ちなみに、80年代に都市のラップを発展させたのも、黒人の社会進出に歯止めをかけ、押しもどすような保守化政策をとったレーガンの功績ともいえる)。

 そこで、親たちがテレビ伝道師の言いなりになって教会にカネを注ぎ込み、ティーンがヘヴィメタに金を注ぎ込み、教会とサタニズムが栄えるのは自由かもしれないが、このふたつの世界のはざまで自分を見失うティーンには、あまりにも救いがないように思える。

■■特権を与えられたスポーツ選手による犯罪■■

 次に取り上げる出来事は、やはりニュージャージー州のグレン・リッジという郊外の町で起こったことで、「Rolling Stone」誌89年10月5日号で記事になっていた。この出来事については、ゲインズも『Teenage Wasteland』のなかで概要を紹介している。事件をまとめると次のようになる。

 89年3月1日、地元のグレン・リッジ・ハイスクールのフットボールと野球チームで活躍し、町中に名前が知られている双子の兄弟、ケヴィンとカイルのシェルツァー兄弟とその仲間たちは、町のなかにある運動場に集まり汗を流した。そして、エセックス郡の検察官が捜査したところによれば、その後、彼らはそこで17歳の娘に出会い、彼女を誘って、運動場の裏手にあるシェルツァー兄弟の家の地下室に連れていった。ふたりの両親は家を空けていた。そこで彼女は、ほうきの柄とミニチュアの野球のバットをヴァギナに挿入され、すくなくともひとりの少年のマスターベーションを手伝わされた。

 後に若者たちの行為とともに問題になったのは、彼らの大半が、被害にあった少女が6歳のころから彼女を知っていたということだ。彼女は地元のハイスクールとは別の特殊学級に通っていたが、グレン・リッジに住み、ハイスクールのチームとソフトボールやバスケットをやっていた。彼女とすこし話をしてみれば、誰でも彼女がすこし知恵遅れであることがわかるという。

 また、この事件が大きな注目を集めることになったのは、事件そのものに加えて、周囲の対応が問題になったからだ。この出来事については、何日もしないうちにそれにかかわった少年たちによって吹聴され、学校中に知れわたっていた。にもかかわらず、ニュージャージー州当局が事件を捜査し、告発するまでには三カ月もかかっている。ハイスクールの学生たちは、スポーツ選手には特権が与えられていることをよく知っていたので、町や学校がこの事件をもみ消しても、不思議には思わなかったのだ。つまり、この町の混乱からは、スポーツ選手を特別扱いするような町のダークサイドがみえてくるということである。

 この町がどのような町かというと、決してバーゲンフィールドのような労働者階級の町ではないが、体質はよく似ている。というよりも、はるかに徹底しているといったほうがいいだろう。

 グレン・リッジは、ニューヨークから15マイルのところにある人口8000人の小さな郊外の町である。これまでほとんど犯罪もなく、せいぜい町の外の人間によるクルマの盗難があった程度という平和な町だ。

 騒ぎの中心となったグレン・リッジ・ハイスクールは、四人のうち三人が四年生の大学に進む州のなかでもトップクラスの進学校だった。生徒は品行方正で、彼らの父親が勤めるのは、広告、出版、建築、法律関係といった企業だった。この町では、ハイスクールの正面から毎日、決まった時間に二回、とても似た光景が見られるという。つまり、三時に学校が終わると、生徒たちが町の大通りに向かい、六時をすこしまわると、彼らの父親たちが駅から家に向かって群れをなすということだ。

 グレン・リッジの住人は、ひとつの大家族だといわれている。裕福な住人たちは、好ましくない目的のために町の土地を購入されることを恐れて土地を買い占め、しかもゾーニングによって家族が暮らす家以外の建物を建てることができないようにしている。この町の住人たちは、町に何もないことを誇りにしているという。この町にはコインランドリーも洗車場もなく、ティーンが学校の帰りに寄り道するようなデパートもビデオ屋もなく、なんとスーパーマーケットすら存在しない。生活必需品は近くの町まで買いだしに行かなければならないのだ。ちなみに、住人たちは共和党支持で結束しているということだ。

■■郊外に浸透する極右派勢力と人種差別■■

 というように、この町はバーゲンフィールドよりもさらに死角のない世界だが、この問題の事件が起こる前の年に、町の影を暗示するような出来事が起こっている。警察によれば、ティーンによる脅迫電話が、頻繁にあったということだ。しかも、電話だけではなく、「おまえたちと子供たち、家族を皆殺しにしてやる」という電話が二日続けてかかり、死んだスカンクがその家のクルマ寄せに置かれていたということがあった。そのスカンクの下には、“かぎ十字”と“W・A・R”、“S・O・D”というイニシャルが書きこまれた手紙が置いてあった。

 この出来事は、スポーツ選手たちの事件とは直接的な関係はないが、いろいろ興味深い点があるので、すこし説明を加えておきたい。

 まず、“W・A・R”は、トム・メッツガーを指導者とするアメリカの極右グループ、ホワイト・アーリアン・レジスタンスの略である。そして、こうした極右派勢力が表に出てくるような状況をつくったのもまた、グレン・リッジの住人たちも支持したであろうレーガン大統領である。

 たとえば、アメリカの極右派勢力の系譜と現在を、豊富な資料と取材で網羅したジェームズ・リッジウェイの『アメリカの極右』には、次のような記述がみられる。

 アメリカの社会が、それまでクロゼットにしまってあった人種差別主義をむやみに外に出そうとするようになった性格の変化の要因としては、さまざまなものが挙げられる。レーガン政府が極右派の登場を承認し、その支持を期待したことは、もっとも大きな要因の一つである。

 一九八〇年代になってロナルド・レーガンが政治の頂点に昇りつめ、「ニュー・ライト」が脚光を浴びるようになったことに勇気づけられて、人種差別集団が暴力事件を起こす頻度が急増した。

 一方、“S・O・D”は、すでに解散してしまったヘヴィメタのバンド、ストームトゥルーパーズ・オブ・デスの略である。しかし、『Teenage Wasteland』を読むと、いまだにこのバンドが、若者たちから崇拝されているのがよくわかる。というのも、S・O・Dのリード・ヴォーカルだったビリー・ミラノは、ニュージャージー州バーゲン郡の出身で、その周辺の郊外の子供たちは彼のことを誇りにしているのだ。

 しかし、何とも不気味なのは、死んだスカンクの下にこのふたつのイニシャルが並んでいることだろう。アメリカでは、郊外で希望もなく出口を失っている白人少年が、極右派勢力の下部組織に吸収されていくといった傾向も広がっているが、このふたつのイニシャルはそんなことを連想させる。====>3ページに続く


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