第14章 保守化するアメリカから浮かびあがる家族の肖像 「普通の人々」、ブラット・パック、ジョン・ヒューズ

普通の人々/Ordinary People―――――――――――1980年/アメリカ/カラー/124分
アウトサイダー/The Outsiders――――――――――――1983年/アメリカ/カラー/92分
ランブルフィッシュ/Rumble Fish――――――1983年/アメリカ/モノクロ=パートカラー/96分
すてきな片想い/Sixteen Candles――――――――――1984年/アメリカ/カラー/93分
ブレックファスト・クラブ/The Breakfast Club―――――――1985年/アメリカ/カラー/97分
ときめきサイエンス/Weird Science――――――――――1985年/アメリカ/カラー/94分
フェリスはある朝突然に/Ferris Bueller's Day Off―――――1986年/アメリカ/カラー/103分
ウィズダム〜夢のかけら/Wisdom――――――――――――1986年/アメリカ/カラー/109分
line
(初出:初出:東京書籍刊『サバービアの憂鬱』、1993年、若干の加筆)
【PAGE-2】
BACK

■■ジョン・ヒューズが生み出す80年代の青春映画■■

 これに対して、そうした時代の空気をまったく違った視点からリアルにとらえ、青春映画に仕立てているのが、ジョン・ヒューズ監督だといえる。彼が監督した『すてきな片想い』や『ブレックファスト・クラブ』、『フェリスはある朝突然に』、『ときめきサイエンス(ビデオ・タイトル:エレクトリック・ビーナス)』といった作品を振り返ってみればわかるように、彼が好んで描くのは、まさに80年代の典型的なアッパーミドルの家庭のティーンエイジャーたちである。

 彼らは、立派な郊外の家で恵まれた生活を送っている。学園生活も悲惨というわけではないし、友だちもいないわけではない。しかし、だからといって、スポーツとか音楽にことさら熱中しているわけでもないし、将来の目標に向かって何かをこつこつ積み上げているわけでもない。非行に走るわけでもないし、家出をするわけでもない。要するに、とりたてて何かあるわけでもないが、死ぬたくなるほど空虚なわけでもない。

 ジョン・ヒューズは、そんな時代の空気を逆手に取るようにして、ドラマを作り上げている。たとえば、『すてきな片想い』では、モリー・リングウォルド扮する主人公サム(サマンサ)が、16歳の誕生日だというのに、家族はそろってそのことを忘れている。彼女の姉の結婚式を翌日に控えていたために、両親はその準備に追われていたのだ。そんな彼女にとって人生最悪の日に、片想いのドラマが展開していく。『フェリスはある朝突然に』の主人公フェリスは、学校をずる休みして、親友とガールフレンドの三人で、シカゴ郊外の家から都心見物としゃれこむ。

 この二本の映画は、どちらの一日足らずの物語である。ジョン・ヒューズは、さしたる変化のない毎日を送るティーンエイジャーの生活から、巧みに特別な一日を作り上げ、そこにドラマを凝縮していく。そのために、家族に誕生日を忘れられたことが"人生最悪の日"になったり、ずる休みをして一日遊びまわることが"人生最良の日"になっていくのだ。また、『ブレックファスト・クラブ』も一日足らずの物語で、無理やり学校に駆り出された彼らにとって最悪の日とも思えるものが、最良の一日に変化していく様が描かれていく。『ときめきサイエンス』もまた、一日ではないが、主人公の両親が出かけて家を空けているある週末だけの物語である。

 こうしたヒューズ作品は、設定をそのままに時間を引き延ばしてしまえば、そのドラマは、とたんにメリハリを失ってしまうことだろう。たとえば、フェリスは、自分のパソコンを使って学校の欠席記録のデータを改竄する。あるいは、楽しい一日を終えたフェリスが家に向かって歩いていると、帰宅途中の父親のクルマが目の前を横切る。彼は、是が非でも先に家に戻り、仮病の続きを演じるために、近道して郊外の家々のなかを走り抜けていく。そうした出来事が、80年代のティーンのちょっとしたスリルとなるかどうかは、ドラマのなかで時間がどれだけ凝縮されているかにかかっている。

 SF的な要素を盛り込んだ『ときめきサイエンス』では、女の子にもてない冴えない二人組が、パソコンに理想の女のデータをインプットすることによって、本物の女を作り出してしまう。彼らは、パソコンをバービー人形に繋ぎ、激しいエネルギーの放出の後に、バービー人形と同じ下着をつけた美人が現れる。そんなアイデアは、間延びしてしまえば、ひどく屈折した郊外のオタク少年のドラマになりかねないだろう。

 ヒューズが時間を巧みに操作して生み出すそんな青春映画は、80年代を生きるティーンエイジャーが、豊ではあるが退屈で、出口となるような外部を失っていることを逆説的に物語ってもいる。それが、レーガン時代のティーンのリアルな姿なのだ。

 一方、そんなヒューズと対照的なアプローチを試みているのが、ブラット・パックのリーダー格さったエミリオ・エステベスが、『ブレックファスト・クラブ』や『セント・エルモス・ファイアー』の余韻さめやらぬ86年に、自ら監督、脚本、主演の三役をこなした『ウィズダム/夢のかけら』だ。

 成績優秀でありながら、未成年のときに犯した罪のために前科者の烙印をおされ、出口も見出すことができずに追い詰められる23歳のジョン・ウィズダム。彼は、恋人とともに銀行を襲い、住宅ローンに苦しむ人々のためにローンの証書を焼き払い、逃げる義賊となる。

 この映画は公開当時、80年代の"ボニー&クライド"といった表現をされていたが、そんなふうにニューシネマと簡単に結びつける前に、まずブラット・パックが確実に背負っている80年代の家庭からの逃走を狙った映画として見ないと、その面白さが半減してしまうだろう。ウィズダムが、住宅ローンの証書を焼き払って義賊になるという展開は、なんとも象徴的である。

 ヒューズ作品とこの『ウィズダム』は、とりたてて何もなく、身動きがとれない時代の空気を、対極からとらえているのであり、その狭間からは、保守化したアメリカの家族の肖像が浮かび上がってくるのだ。


 
―ときめきサイエンス―


◆スタッフ◆

監督/脚本   ジョン・ヒューズ
Robert Redford
撮影 マシュー・F・レオネッティ
Matthew F. Leonetti
編集 マーク・ワーナー、クリス・レベンゾン
Mark Warner, Chris Lebenzon
音楽 アイラ・ニューボーン
Ira Newborn

◆キャスト◆

ゲイリー   アンソニー・マイケル・ホール
Anthony Michael Hall
ワイアット イラン・ミッチェル=スミス
Iran Mitchell-Smith
リサ ケリー・ルブロック
Kelly LeBrock
チェット ビル・パクストン
Judd Hirsch

(配給:UIP)

―フェリスはある朝突然に―


◆スタッフ◆

監督/脚本/製作   ジョン・ヒューズ
John Hughes
撮影 タク・フジモト
Tak Fujimoto
編集 ポール・ハーシュ
Paul Hirsch
音楽 アイラ・ニューボーン
Ira Newborn

◆キャスト◆

フェリス   マシュー・ブロデリック
Matthew Broderick
キャメロン アラン・ラック
Alan Ruck
スローアン ミア・サラ
Mia Sara
ジニー ジェニファー・グレイ
Jennifer Gray
ルーニー校長 ジェフリー・ジョーンズ
Jeffrey Jones

(配給:UIP)



―ウィズダム/夢のかけら―


◆スタッフ◆

監督/脚本   エミリオ・エステベス
Emilio Estevez
撮影 アダム・グリーンバーグ
Adam Greenberg
編集 マイケル・カーン
Michael Kahn
音楽 ダニー・エルフマン
Danny Elfman

◆キャスト◆

ジョン・ウィズダム   エミリオ・エステベス
Emilio Estevez
カレン デミ・ムーア
Demi Moore
父親 トム・スケリット
Tom Skerritt
母親 ヴェロニカ・カートライト
Veronica Cartwright

(配給:ワーナー映画)
 
 
 

 

(upload:2006/06/12)
 
 
《関連リンク》
サバービアの憂鬱 第15章 崩壊する家庭とよみがえる50年代の亡霊 ■
80年代から浮かび上がるアメリカのダークサイド――トッド・ヘインズの世界 ■
『SAFE』レビュー ■

 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp

back topへ



■home ■Movie ■Book ■Art ■Music ■Politics ■Life ■Others ■Digital ■Current Issues


copyright